巻ノ三十三 追撃その六
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「今はな」
「はい、では」
「敵が逃げる間にですな」
「兵を集め」
「そのうえで」
「追い打ちの用意をしてじゃ」
そしてというのだ。
「ここはじゃ」
「ここでは、ですな」
「あらためて攻めてですな」
「そして、ですな」
「敵を攻めて」
「そうじゃ」
そのうえでというのだ。
「散々に破るぞ」
「その時こそですな」
「この上田に二度と攻めようと思わないまでに」
「それ程までですな」
「うむ、破るのじゃ」
これが昌幸の考えだった。
「散々にな」
「ここぞという時に」
「敵が最も油断し攻めやすい時に」
「その時にですな」
「そうじゃ」
まさにとだ、昌幸はまたしても強く答えた。
「わしも出る、その時はな」
「では」
「軍勢の殆どで向かう」
「そうされますな」
「その通りじゃ、源三郎も源四郎もじゃ」
二人の息子達もというのだ。
「共に出陣してじゃ、よいな」
「ではお二方にも」
「その様に」
「伝えよ。今は強く攻めるでない」
逃げる徳川の兵達はというのだ、そして実際にだった。
昌幸は徳川の軍勢を今は強く攻めさせなかった、鳥居は決死の覚悟で殿軍を務めてが無事に城から出られた。
そのうえでだ、自身が率いる者達に言った。
「こうなってはじゃ」
「はい、仕方ないですな」
「この有様では戦うことは適いませぬ」
「上田から出て、ですな」
「駿府に帰りますか」
「そうする」
苦い顔だが断を下した。
「ではな」
「はい、これより」
「退きましょうぞ」
「上田から」
周りの者達も答えてだ、そのうえでだった。
徳川の兵達は素早く上田の城から離れた、最早迷うことはなかった。
そのまま一路南に逃げていく、幸村は兄と共に城の大手門まで行き敵の逃げ遅れた兵がいるかどうか調べていた。城を確保しつつ。
「殿、敵の逃げ遅れた兵はです」
「一人もいませぬ」
「傷ついた者もです」
「おりませぬ」
十人の家臣達が幸村に述べた。
「どうやら傷付いた者もです」
「全て担いで逃げたそうです」
「味方は何があっても見捨てぬ」
「死なぬ限りはですな」
「それが徳川殿じゃな」
徳川家の考えだとだ、幸村は彼等の言葉を受けて述べた。
「兵であろうとも見捨てぬ」
「こうした逃げる時もですな」
「生きていれば連れて行く」
「そうした家なのですな」
「そうじゃ、兵を見捨てぬのならな」
それならばもだ、幸村は話した。
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