巻ノ三十三 追撃その五
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「退くしかな」
「はい、では」
「ここはですな」
「城を出て」
「そのうえで」
「うむ、上田からもな」
城だけでなく、というのだ。
「出るぞ」
「やられ過ぎましたな」
「それで、ですな」
「ここは逃げて」
「そのうえで」
「駿府まで帰るぞ」
断を下した、その断によってだった。
徳川家の軍勢は城から潮が引く様にして退くはじめた。鳥居は自ら後詰を務め退きの采配も行った。その彼をだ。
昌幸は櫓から見つつだ、こう言った。
「ふむ、退きもな」
「よいですな」
「理に適っています」
「よき退きかと」
「うむ、真の勇将は退きも見事じゃが」
昌幸は己の後ろにいる家臣達に話した。
「鳥居殿はな」
「ですな、まさに」
「あの御仁は見事な勇将です」
「真の」
「そうした方ですな」
「全くじゃ、しかし伏兵はな」
徳川の者達が驚いたそれはというのだ。
「実はじゃ」
「はい、旗を立てさせただけで」
「伏兵ではありませぬ」
「しかしですな」
「相手はそれにかかりましたな」
「うむ、人は普通でない時は些細なことでも慌てる」
まさにというのだ。
「だからな」
「ここで旗を出してもですな」
「普通に驚く」
「人の心は」
「戦は人を攻めるものじゃ」
孫子の言葉も出したのだった。
「その心をな」
「だからですな」
「ここは心を攻めて」
「そしてですな」
「そのうえで」
「破るものじゃ、だからじゃ」
それ故にというのだ。
「旗も出させたのじゃ」
「そうですな」
「それでは、ですな」
「ここは一気に」
「追い打ちをかけますか」
「いや、追い打ちは仕掛けるが」
昌幸は家臣達に確かな声で答えた。
「すぐにはせぬ」
「と、いいますと」
「一旦城から出させてですか」
「そのうえで、ですか」
「敵を城から出してじゃ」
それからとだ、昌幸は言った。
「敵が川を渡った時にな」
「その時に」
「一気に攻めますか」
「そうしますか」
「うむ、攻める」
こう言うのだった、そして。
あらためてだ、昌幸は家臣達に話した。
「敵が城から出るまで攻めるのは控えよ」
「攻めるよりもですな」
「ここは」
「兵達を集めよ」
こう言ったのだった。
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