5部分:第五章
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第五章
「じゃあ森鴎外の代表作は?」
「誰ですか?それ」
今度はこれだった。
「一体。誰なんですか?」
「明治、大正の文豪よ。医者でもあったのよ」
その医者としての実績は脚気において脚気菌があると主張して陸軍の兵達に白米を食べさせて多くの脚気患者と死者を出したものがある。
「知らないのね、本当に」
「ええと、まあ」
「だから。はっきり言うけれど」
「言うけれど?」
「ドラマの台本の漢字も全然読めないし」
それでマネージャーの彼女がルビを振っているのだ。漢字を読めないからそれでしているのだ。それもマネージャーの仕事になっているのだ。
「それじゃあね」
「今の評価は仕方ないですか」
「そうよ。それでね」
「それで?」
「そのことでよ」
そのあれだということについての話になった。
「仕事の依頼が来たわよ」
「ドラマですか?」
「ドラマは次のシーズンよ」
今ではないというのである。
「それとは別の仕事よ」
「ええと。またバラエティですか?」
「クイズ番組よ」
それだというのである。
「クイズ番組ね。それよ」
「何でクイズなんですか?」
奈緒はマネージャーのその話を聞いてだ。きょとんとした顔になった。
そしてそのうえでだ。彼女に問うのだった。
「ですから私、あれなんですよね」
「あれだからよ」
「あれだから?」
「だからクイズ番組の話が来たのよ」
マネージャーは落ち着いた顔で話す。
「つまり。クイズで回答してね」
「はい、それで」
「そこであれな回答を出して」
話が具体的なものになってきた。
「笑わせることが目的よ」
「視聴者の人をですね」
「そう、だから話が来たのよ」
つまりあれな回答で他人を笑わせろというのである。
「わかったわね」
「わかりました。それでなんですか」
「それでどうするの?」
マネージャーはここまで話してあらためて奈緒に尋ねた。
「この仕事受けるの?」
「お仕事でしたら何でも」
これが奈緒の信条だった。こうした仕事は何時仕事が途絶えるかわからない。だからこそ仕事の話があれば何でも受ける、そうした考えなのだ。
それでだ。彼女は答えたのだった。
「引き受けさせてもらいます」
「わかったわ。じゃあ受けるってことでね」
「御願いします」
「じゃあ。期待してるわよ」
マネージャーは微笑んだ。そのうえでの言葉だった。
「珍回答をね」
「やらせてもらいます」
こうしてだった。奈緒はだ。あらたな境地を開いたのだった。
以後彼女は演技はいいがあれな女優として知られるようになった。それは彼女にとっていいことだった。少なくとも悪いことはなかった。
女優の過ち 完
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