後編
6.カウントダウン
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、うまく手に力が入らなくて捕まえ損ねた。球磨を追いかけようと足を動かそうとするが、上手く動かせない。
「まて球磨。戻れ」
「ダメクマ。行くクマ」
「……あーそうかい。好きにしてくれ」
「うん。行くクマ」
球磨の足取りは変わらず、下半身が全部海に浸かった状態でざぶざぶと沖に向かって歩いている。……何か嫌な予感がする。球磨を止めなければ行けない気がする。
「戻れ! そっち行くな!! なんかヤバい!!!」
「ダメクマ。みんな行くクマ。みんな待ってるクマ。だから球磨も行くクマ」
球磨はこっちを向かない。さっきから俺は球磨の後ろ姿しか見てない。どうした妖怪アホ毛女。こっちを見ろ。
「戻れ! 俺の言うことを聞け!!」
必死に球磨を言葉で制止しようとする俺の両脇を、同じく北上や隼鷹、川内や加古、ビス子が追い抜いていった。そいつらも俺には後ろ姿しか見せず、顔を見せない。表情が読めない。
「……行くクマ」
提督さんが俺を追いぬき、みんなと同じようにざぶざぶと海の中に足を踏み入れていった。俺は海の中に入っていくこいつらを止めたくて必死に足を動かそうとするが、やはり足は動かず、俺はその場から動けない。
フと、球磨のはるか前方にいる人影が目に着いた。全身水浸しで海面に立ち、今は帽子を被ってない上、こちらに背中を見せてはいるが、それが誰かはひと目で分かった。
「暁ちゃん!!」
こちらに背中を向けている暁ちゃんは、俺の呼びかけに答えることもなく、ただその場にずっと佇んでいる。よく見たら、その身体には穴が空いていた。
「行くな……いやだ……」
ヤバイ。このまま行かせたらあいつらは……球磨は帰ってこなくなる。そんな気がする。球磨が俺の隣から永遠に姿を消す。俺の前からいなくなる。俺に迷惑をかけなくなる……球磨と口喧嘩できなくなる。
「返事しろ!! 球磨!!! 球磨ぁぁあああ!!!」
あの時のように、何度も何度も球磨の名を呼び、動かない足を引きずって前に進もうとした。だけど俺の足は根っこでも張ったかのようにここから動かすことが出来ない。あいつらは……球磨は俺の声に反応せず、身体が沈んでいることも厭わずひたすらざぶざぶと海の中を歩いて行く。
「戻れ!! 行くな加古!! 北上!!!」
当然のように誰も反応しなかった。あいつらはただひたすら、前に進んでいた。
「那珂ちゃん探照灯使うんだろ川内!! 暁ちゃんの分まで生きるんじゃなかったのかビス子!!!」
誰も振り返らない。俺の声に誰も反応ない。皆、フラフラと海の中に歩いていく。比較的足の進みが遅い球磨と北上を他の皆が追い抜きつつ、皆沖の方へと歩いて行く。
「惚れた男と平和な世界を生きるんじゃなかったのか隼鷹
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