暁 〜小説投稿サイト〜
魔界転生(幕末編)
第44話 決死の逃亡
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
男の姿はまるで牧師のような姿で網傘を目深くかぶっていた。
「ははは、宣教師殿が拙者の味方?」
 近藤は噴き出した。
「はい、その通りです。近藤勇殿。この戦い、貴方様はおそらく負けるでしょう」
  その男の声は妙に説得力があった。
「き、貴様!!」
 だからこそ近藤は腹が立った。
「近藤殿、貴方様にはやり残したことはございませんか?そのために生きたいと思いませんか?」
 男は刀を構えている近藤に恐れなど感じないといった風にどんどん近づいて行った。
「貴様、止まれというに」
 近藤は男の首筋に寸前で刀を止めた。
「近藤殿、貴方さまが思うが儘に生きたいと思いませんか?」
 男はそんな状態でもひるむことはなかった。
「大した奴よ。この状況でもひるまんとは」
 近藤は刀をおろした。
「して、わしにどうしろというのか?このまま味方を残して逃亡しろと?」
 近藤は、刀をしまいつつ男に問いかけた。
「いいえ、貴方様には一度死んで戴きます」
 近藤には男がにやりと笑ったように見えた。
「わしに死ねと・・・・・・・・・・」
 近藤は男を見つめた。
「さよう、そして、死の前に生きたいと願うのです。生きたいと心底願い、このおなごと交わりなされ」
 男の後ろから呆けたようなでいて美しい女性が現れた。
「な、なんと」
 近藤は驚きのあまり大きく目を見開いた。それは自らの正妻・つねの顔だった。
「貴様、つねに何をした!!」
 近藤は男に飛び掛からんとする勢いで激怒した。
「御待ちあれ、近藤殿。この女御は貴方様の正妻・つね様ではございません。遠縁にあるもの。ですが、余ほど、つね様に似ておられるのでしょうなぁ」
 男の声が楽しそうに聞こえる。
「この女御は焼くなり煮るなりなされませい」
 男は女の背中を押すとフラフラと歩きだし、倒れそうになった。近藤は素早く女を支えた。
「も、もしや、貴様か。岡田以蔵や高杉晋作を化け物に変えたのは」
 近藤はすべてを察した。
「私ではありませんが、半分は当たっていますな」
 男は網傘を少し上げると真っ赤な唇の口角をあげて微笑んだ。
「仮にも、新撰組局長であるわしに化け物になれと?」
 近藤は虎徹を素早く抜いた。が、男は飛び退きそれをかわした。網傘の一部が裂けた。
「貴様、何奴か?貴様も化け物か?」
 近藤は男に対して仁王立ちで聞いた。
「私の名は、天草四朗時貞。徳川を、いや日本を呪う者。またお会いしましょう、近藤殿」
 天草はひらりと宙に舞うと闇の中へと消えて行った。
「あれが天草四朗か」
 近藤は女を抱き抱えながら再び天を仰いだ。その後ろから仲間の声が聞こえてきていた。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ