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ロンドン塔
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第一章

                     ロンドン塔
 イギリスの首都ロンドンにはある塔がある。
 この塔には以前から言われていることがある。それはだ。
「あの、あの話って」
「ああ、あの噂だな」
 塔の衛兵に新しく配属されたウィリアムにだ。先輩の兵士であるリチャードが応える。その彼等がだ。兵の詰所において真面目な顔で話をしていた。
 リチャードはだ。こうウィリアムに話す。
「事実だからな」
「やっぱりそうなんですか」
「出るぞ、夜にな」
 リチャードは紅茶を飲みつつウィリアムに話していく。
「それも色々な方がな」
「じゃああの人は本当に」
「アン=ブーリン王妃か?」
「あの人出ます?」
「きっちり出るぞ」
 平然としてだ。リチャードは答えた。
「あの方もな」
「そうですか。やっぱり」
「ただその時によって姿は変わるな」
「そうらしいですね」
「首があったりなかったりするんだよ」
 アン=ブーリンは首を刎ねられて死んでいる。夫であるヘンリー八世に不倫という濡れ衣を着せられてだ。そのうえで処刑されたのだ。
 だから首がある場合とない場合があるというのだ。アンはだ。
「それに馬車に乗ってたりな」
「侍女を連れたりですね」
「その都度姿が違うからな」
「そうですか。それにしても」
 ウィリアムはそのリチャードを見ながら話す。
「先輩よく御存知ですね」
「よく見るからな」
 それで知っているとだ。リチャードは答えた。
「だからな」
「それでよくですか」
「ああ、知ってるんだよ」
 それでだというのだ。
「他の方も見るからな」
「そうなんですか。俺は実は」
「御前はここに赴任したばかりだからな」
「はい、夜勤も今日がはじめてです」
 それでだというのだ。そうした幽霊達を見ることがなかったというのだ。
「ですから何か今日の夜勤は」
「怖いか?」
「幽霊とか見たことないですし」
 実際に不安な顔になってだ。ウィリアムは話す。
「一体何があるのか」
「安心しろ。襲い掛かってくることはない」
「あっ、ないんですか」
「俺はここに二年いてしょっちゅう夜勤もしてるがな」
 それでもだというのだ。リチャードはその紅茶を飲みつつ話していく。
「一度もそうしたことはないぞ」
「襲われたことはですね」
「ああ、ない」
 また答える彼だった。
「それにだ。他の人達もな」
「そうしたことはないんですか」
「ああ、何百年も出てる方々だがそうした話はない」
「何か平和なんですね」
「慣れればどうということはないからな」
 見てもだ。全くだというのだ。
「そういうことだからな。だから後で見回りに行くけれどな」
「そうした方々が出て来られてもですね」
「気にする
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