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夢幻楽章
夢幻楽章
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[1] 最後
 僕は新篠台(にいしのだい)駅で彼女らと待ち合わせをしていたらしいのだった。この駅はいかにも現代チックで、黒崎(くろさき)線のホームは地下にあって、地上にはスーパーやら病院やら、とにかく色々とあるのだ。
 僕が乗った電車が一番ホームに滑り込んだとき、イヤフォンで耳に繋いだ携帯音楽プレーヤーはハイドンのピアノソナタ六十二番の力強い第一楽章をまさに奏し終えようとしていた。腕時計の針は十二時を五分ほど回っていた。遅刻である、と思った。はたして僕は電車を降りるとすぐに、地上に上がる階段の前の女の子四人組を目にしたのだった。
 四人とも同じ制服を着ていた。僕から見て左から二番目の、背は高くもなく低くもなく、肩ぐらいまでの黒髪を後ろで一つに纏めている子に、僕はまず「やあ」と声を掛けた。僕にこんな女友達がいただろうかと思いつつ、事実僕は彼女の名前がわからなかったが、一方で彼女とはずっと前からの知り合いであって確かに今日の約束の相手であるような気もしたから、挨拶したのだった。すると彼女もニッコリ笑って「やあ」と返してくれた。彼女の右隣にいた、背の高い、ちょっとボーイッシュな子が「ユカ、この人が?」と言って彼女を小突いた。「うん」と彼女は短く答えた。
 四人の内で一番左にいる子は、二つに分けた三つ編みの、物静かな感じで、手には文庫本を持っていた。一番右の子は、小学生みたいに背が低かった。項《うなじ》の辺りで切り散らした茶髪を無造作に放ちながらぴょんぴょんと跳ね回っていて、中身も小学生のようだった。そうして時々隣のボーイッシュな子にあやされていた。名前はエリというらしかった。どうやらつまり、僕はユカという幼馴染みの女の子に、その友達を紹介してもらうことになっているようだった。
 僕らは駅を出て、ユカが予約していた店に向かった。道すがらサキ?ボーイッシュな子?とエリはよく絡んできた。本を持っている子はやはり何もしゃべらずに一番後ろを歩いていた。一度だけユカが彼女を「ミオ」と呼んで何やら話しかけていたが、ミオは簡単に頷いただけで結局声は聞こえなかったと思う。そもそも僕はサキと二人でエリの両脇を固めて相手をするのに忙しかったのだ。エリは何度も僕を「お兄ちゃん」と呼びたがった。それはとんでもないことだった。「大体こんな妹がいたら手が掛かりすぎるよ」と僕は半分冗談めかして言った。すると彼女はふーっと頬を膨らませたかと思うと、突然飛び跳ねて僕の帽子を奪い取ったが、取り落としてしまった。そして急いでそれを拾い上げると、捕まえようとする僕の手をすり抜けて、先頭を歩いていたユカの所に走っていき、彼女に一方的に話しかけ始めた。僕とサキは二人だけで並び歩く恰好になった。サキがさり気なくエリがいた分の間隔を詰めてきて、僕に寄り添うようにして、「夫婦みたいだ」と言った。「君まで。よしてくれよ
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