夢幻楽章
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」と僕は天を仰いだが、すぐに冗談を思い付いて「第一、エリは僕の妹なんだろう。僕と君が夫婦ならあれはまさに僕たちの娘って感じだ。妹かつ娘とはおかしいじゃないか」と応えた。すると彼女は「娘か、それも良いものだな」とユカに畳み掛けるエリを眺めて目を細めた。それから「だが確かに、もしそんなことがあったら大変な禁忌に当たるな」と言ってふっと笑った。僕はなんだかやり込められた気がして素早く思考を泳がせたが、ちょうどそこにエリ戻ってきて、うーっと背伸びをして、僕の頭に帽子を再びちょこんと載っけてくれた。ユカは振り返って僕たちを見て笑っていた。サキは何食わぬ顔でぺしっとエリの頭を叩きながら、やはり笑ってみせた。もうサキに言い返すような場面ではなかった。やれやれ、と僕も苦笑するしかなかった。
店は小さかったが、内装は黒を基調とした和洋折衷の洒落た感じで、料理の方もまた然り、和洋取り合わせたちょっと手の込んだ家庭料理といったふうだった。ただ、高校生が連れだって来るには少し場違いな気もした。特に目を輝かせて「オムレツ!」などと言っている小学生もどきは、場に於いて重大な違和であると言わざるを得なかった。もっともそれはてっぺんに旗が立っているような陳腐なオムレツではなく、牡蠣と菜の花とマスカルポーネチーズのオムレツという、なかなか渋い一品ではあったが。ユカは鰤のグリルのアップル・ソース掛けを、サキは鶏とパクチーの唐揚げを、ミオは根菜と山菜のホワイト・シチューを注文していた。僕はというと、かなり悩んだ末に結局エリと同じオムレツにした。そして案の定「お兄ちゃんとお揃い!」とはしゃがれてしまったのだった。料理が来るまでの間は自己紹介の時間になった。しゃべらないミオのことはユカが代わりに紹介して、ミオはそれに対し時折頷いていた。しかし座の話題はすぐに僕の事に集中しだした。僕がサキやミオやエリの事を知りたかったように、彼女たちも僕の事が知りたかったのだろう、世には多数決の原理というものが働くし、それにユカが何故か僕について在る事無い事とうとうと話すものだから、自然とそういうことになってしまったのだ。
話が僕が先日ピアノのコンクールで入賞した事に及ぶと、サキとエリは口々に僕を讃めた。ミオも頻りに頷いていた。中でもエリはひときわ熱心だった。他の女の子たちはユカの男友達に対するサービスだったろう。しかしエリを見ていると「否、そんな大した事では」というお決まりの謙遜、否、小さなコンクールだったのだから実際に全然大した事ではないのだが、ともかくそんなことすら、なんだか言うのが躊躇われてしまった。これではまるでエリの「お兄ちゃん」ではないか。とはいえ、彼女が何を考えているのかはよくわからなかった。つまり僕はエリにとって半人前の兄なのかも知れない。そして半分の事実、半分の謙遜を言えないで、
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