後編
4.返事をしろ(後)
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その声は、ビス子の背後から唐突に聞こえた。緊張感のかけらもない、いつものあの、俺を振り回すときの妖怪アホ毛女の声だった。
「……球磨か?」
「……思ったより、早く帰ってこれたクマっ」
「無事……か……?」
「無事ではないクマ。怪我してるクマ」
球磨に言われて気付いた。球磨の艤装が煙を噴いていて、服が少し破けていた。顔も少し汚れていて、なるほど言われてみれば怪我といえなくもない。
「どういうことだよ……川内言ってたぞ? お前のことが残念だったって……」
「ぁあ、それクマ?」
「ああ……」
「言うのも屈辱だクマ。アホ毛が……」
「アホ毛?」
「クマっ」
球磨が口惜しそうに、自身の頭の上を指さした。球磨の頭を見ると、アホ毛がなくなっていた。
「まさかお前……」
「戦闘中にアホ毛が敵の砲弾でふっとんだクマ」
「残念なことって……それか?」
「そうクマ」
「だから落ち着いてって言ったのに」
川内はそういうと、少しバツが悪そうにほっぺたをぽりぽりと掻いた。球磨は球磨で、残念そうにアホ毛の痕を撫でていた。
俺はというと、今までの張り詰めた精神テンションが一気に緩んで全身から力が抜けた。俺は、球磨が轟沈したと早とちりしてここまで走ってきた。不安で不安で仕方なかった。だから縺れそうな足を必死に動かし、痛いほどの鼓動を繰り返す胸の不快感を我慢してここまで走ってきた。
だから球磨が無事だとわかった今、俺の全身から力がすべて抜けた。体中の緊張が一気に緩み、両足に力が入らない。膝から崩れ落ちた俺は、そのままその場にへたりこんだ。
「はは……そっか……よかった」
「よくないクマっ。アホ毛が戦闘中に吹っ飛んだのは初めてだクマっ!」
「よかった……よかったよぉ……」
「……?」
ホッとしたら涙すら出てきた。さっきまでとは違う原因で手の震えが止まらない。涙を袖で拭きたいのだが、それがままならないほどに身体に力が入らない。喉が震える。うまく声が出せない。
「俺……お前が……沈んだと思って……」
「ハル?」
「よかった……ひぐっ……本当に……」
やっと手が動くようになってきた。袖口で涙を吹く。情けない。こんなとこアホ毛女に見せたらなんて言われるか……
球磨が艤装を外し、主機を脱いで俺のそばまで歩いてきた。そのまましゃがんで俺の両肩を掴み、俺の顔をまっすぐに見据えて、今まで見せたことが無いほどの優しい笑顔になった。右手で俺のほっぺたに優しく触れ、目から流れた涙を親指で拭ってくれた。
「……ハル」
「お? ああ……すまん。なんか安心したら涙出てきちゃって……」
そしてそのまま俺の首に手を回し、球磨は俺をしっかりと抱きしめてくれた。一瞬だけ戸惑ったが、
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