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八神家の養父切嗣
二十九話:休暇の始まり
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生きてくれている。ただ生きていてくれるだけで僕は良いのに……どうしてまた敵になったんだろうな」
「運命的なもので私達は対立することが定められているのかもしれないな」
「運命か……嫌いな言葉だ。神様はいつだって身勝手で我儘だ」

 神は気まぐれで人を殺す。人を苦しめる。誰も望みもしない運命を押し付けて人間が足掻くさまを見て興じる。衛宮切嗣は神や英雄という存在が嫌いだ。彼らは人を争いに向かわせる。宗教に至っては人類史を見れば最も人を殺してきたと言っても過言ではない。

 もっとも、多くの場合は人間の欲望の大義名分として働いてきたのが現実だろう。だとしても、人を争いに向かわせるそれが切嗣は嫌いだった。争いを起こしている身で言うのも滑稽だがどうしようもなく嫌いだった。

「そうか? 私はこれが運命だというのなら悪くないと思うぞ」
「どうしてそう思うんだい?」
「簡単なことだ。私も騎士達も主はやてに会え、何より……お前に会えたからな」

 そう言ってはにかんだように笑う彼女がどうしようもなく眩しく見え、彼は目を細める。アインスの考えこそが人間的で正しい考えだろう。彼女は未来を信じている。過去に囚われてなどいない。輝かしい人間の可能性そのものだ。

 だが、それでも―――彼はそのような運命を認められない。
 
 目の前の誰かが死ぬ運命があるのならそれを捻じ曲げてみせよう。
 その人物が死ななければ世界が滅ぶ運命だとしても救ってみせよう。
 犠牲無くしては生きられない運命(ルール)など破壊してみせよう。

「アインス、そう思ってくれるのは嬉しいし、僕も君に会えたことは人生最大の幸福だと思っている。でも……彼らが死ななければならなかった運命なんて、僕は認めない」

 数え切れないほどの人々に犠牲を強いてきた。死ぬべき運命にある人間を殺し、生きるべき運命にある人間を生かし続けてきた。以前は正しいことだと自分を騙して行ってきた。しかし、今となっては自分の行動全ては間違いだったのだと悟らされた。

 なら、死ぬべき運命の人々もまた間違った運命だったのだ。彼らは生きるべきだ。報われるべきだ。間違った運命でその生を弄ばれるということなどあってはならなかったのだ。全ての人間が平等に生きることのできる世界であるべきなのだ。

「そうか……ああ、お前はそういう男だからな。なら、仕方ない」
「ごめん……」
「気にするな。私はそんなお前を愛しているのだからな。お前の全てを私は肯定しよう」

 アインスは切嗣の願いを知っている。どうしようもなく愚かで破綻した願いを。そもそも、彼の願いは願いと言っていいものかすら分からない。何故なら彼自身が破綻していることに薄々気づいているからだ。だとしても、彼は止まらない、止まれない。

「ありが
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