二十九話:休暇の始まり
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ってしまう彼女を観察する。彼女、アインスはホテルのベッドに腰かけ何やら雑誌らしきものを読み、時折嬉しそうに笑みを浮かべていた。
その顔は子を見守る母のような温かさと穏やかさを兼ね備えていた。だから彼女が何を読んでいるかを切嗣は聞くこともなく察することができた。あの小さく弱々しかった子も今では一人で立ち、自分の道を歩いている。それがどんなに嬉しくとも顔には出せない。もっとも、彼女はそんな彼の心を見透かしたように声をかけてくるのだが。
「切嗣、こっちに来てみろ。主のことが載っているぞ」
「……僕はいいよ。雑誌は余り読まないからね」
「いいから、私がお前と共に読みたいのだ」
悪戯気な笑みと共に期待の籠った眼差しを向けられる。あいにく、切嗣にはこの視線に打ち勝つ術を持ち合わせていない。困ったような、はぶてたような顔をして彼は彼女の元に行き、隣に腰を下ろす。そうすると図ったように勝ち誇った笑顔を向けられる。
彼女がいつまで経っても娘のことを割り切ることのできない自分に対して気を使ってくれたのは分かる。しかし、こんな笑顔を向けられると惚れた弱みに付け込まれたような気持になってしまう。恐らく、衛宮切嗣という男はリインフォースTには勝てない定めなのだろう。
そんなどうでもいいことを考えながら切嗣は彼女が開いた雑誌に目を落とす。探す必要もなくあの子の姿を見つける。写真に写っているのはあれから十年の時を経て成長した娘の姿。元々童顔だったためかあの頃から大きく顔立ちが変わったという印象は受けない。しかし、確かに感じられる成長に心臓が鷲掴みにされたような感覚を覚える。
「あれから十年、主は立派になられた。この目で見ることができないのが少し残念だがな」
「……直に会えるさ」
「ああ、その時は……私達と戦う時だろうだな」
「君が望むなら……いや、何でもないよ」
―――君が望むなら今すぐにでもはやての元に送り届けよう。
切嗣はそう言おうとしたがアインスのむすりとした表情を見てやめた。何度もこのことについては話し合ったが彼女が自分の傍から離れると言ったことはただの一度もなかった。
彼女はろくでもない自分を愛してくれている。それがどれだけ嬉しくて、悲しくて、憎いのかは言葉では言い表せない。彼女に幸せになって欲しいと一人の男として願わない時はない。だが、しかし、この身は一人の女性ではなく世界に、今までの犠牲に奉げると決めた。
それがどれだけ歪んでいるか、穢れているか、間違っているかなど考えたくもない。そしてそんな間違ったことに新たな犠牲を強いている自分がたまらなく憎い。もし、過去に戻れるのなら自分は間違いなく生まれたばかりの自分を殺すだろうという自信があるほどだ。
「はやても、ヴォルケンリッター達も今を
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