後編
1.ひとそれぞれ
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ることなく、球磨に連れられてその場を離れていった。
あの日の球磨を思い出す度に不思議に思う。あの時の球磨は冷静に振舞っていた。仲間を失った悲しみを抱えていただろうとは思うが、暁が轟沈したことを悲しむよりも、生きているみんなのことを心配していた。
あの空間にいたら、誰もが暁の死を悲しむだろう。でも球磨はそうしなかった。もう帰ってこない仲間のことを悼む気持ちよりも、自身の妹をはじめ、残った仲間のことを優先していた。理屈で考えれば非常に理にかなった行動ではあるのだが……
事実、あの日以降哨戒任務が手につかないビス子や川内たちに比べて、球磨は1回たりとも哨戒任務を休むことはなかった。気持ちが沈んで哨戒任務に出られない子がいれば、自らすすんで代わりに哨戒任務に従事した。場合によっては24時間哨戒任務に出ることもあった。遭遇戦で、今一精彩を欠く加古を庇って大怪我をして帰ってきたこともあった。
みんなが暁ちゃんとの別れに打ちひしがれている中、球磨だけはただ一人、気丈に振舞っていた。みんなが苦しんでいる分その穴を埋めるように、球磨はみんなを支えてがんばっていた。
普通出来るだろうか。あの悲しみを味わわされたその直後、生きている仲間のことを優先して動くことが……悲しみに呑まれることなく、その悲しみに押し潰されそうな他の仲間のことを心配し、支えることが……
「あいつは今、気が張ってるんだと思う」
「でしょうね。あの時は俺も頭に血が上りましたけど、今なら、あいつが必死に皆の支えになれるよう冷静でいたことが理解出来ます」
「ああ。いつか限界が来て、糸が切れたように悲しみに襲われるかもしれん」
俺もそれを一番心配している。一番悲しい時に無理をしていたんだ。その分、あとで糸が切れた時の反動に襲われた時の悲しみは、それの比ではないだろう。
「ハル。もし球磨が折れそうになった時は、支えになってやって欲しい。あいつはきっと、北上には弱い自分を見せられないはずだ。もしあいつが寄り添える相手がいるとすれば、それはきっとハルだ」
「……」
「あいつが助けを求めてきた時は、頼む」
もちろんだ。自惚れるつもりはないし、あいつが妖怪アホ毛女であることに変わりはないが、あいつはおれの大切な仲間だ。もし泣いて助けを求めてくるようなことがあれば、俺は喜んで力を貸す。俺でなければダメだというのなら、俺は球磨を受け止める。
今日はあいつが店に来る。様子を見る意味でも、球磨の予約は外せなかった。
執務室での話も終わり、自分の店に戻る道すがら、加古お気に入りの昼寝ポイントに足を運んでみた。今日は天気も良くて日差しが気持ちいい。こんな日なら、今日は休みの加古がいるかもしれない。球磨の予約まではまだ時間がある。少し足を伸ばしてみる
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