第6章 流されて異界
第137話 呪詛返し
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但し、彼女の助けを得なければならないほど自身が消耗していた訳ではないので、ほぼ自力で。しかし、それでも彼女の心遣いを無にしない為に、ほんの少し、彼女の力に頼った立ち上がり方をする。
そして立ち上がった時には既に、この場所に辿り着いた時と同じ出で立ち。黒の学生服の上下に身を包んだ姿で立っていた。
そう、最初にこの場に現れた時と比べても欠けた部分はなし。確かに多少、ズボンの方に地面を転がった際に付いた土が存在しますが、上着に関しては綺麗な物。まして、炎に炙られたはずの蒼の髪の毛も元と変わらない微妙な長さで風に弄られている。
さつきとの戦いを終わらせた直後とは思えないほど自然な雰囲気。現状の俺からは消耗した様子は一切見えなかったはず。
「すまなんだな」
闇の内に沈む白衣緋色袴姿の巫女を少し見つめる俺。そして、口元を白くけぶらせながら、最初に感謝の意と謝罪の意味を籠めた言葉を口に。
右手を繋いだ状態で僅かに微笑んで答えてくれる弓月さん。有希やタバサの表情とは違う温かさを含んだ笑みと、そして少し冷たい手の感覚が如何にも彼女らしい。
「あまり無理はしないで下さいね」
普段の彼女とは違う……西宮での弓月さんの声は少しトーンの低い、しかし、どちらかと言うと甘い声であった。朝比奈さんのような、少し幼い雰囲気のある声と表現出来る声と言った方が良いかも知れない。確かに、今の彼女の声は、大枠ではそれまでの弓月さんの声と同じ種類の声質だと思う。
但し、イメージが違う。今の彼女の声はまるでテレビのナレーターのような、聞き易く、非常に落ち着いた声。故に、反発や不安を俺に感じさせる事もなく、心の奥深くにすとんとはまり込む。
ただ……。
ただ、彼女が俺に向けている笑顔は、現実に……今ここに居る俺ではなく、彼女の記憶の中に存在している俺の可能性が――
「ちょっと、こっちを見なさいよ!」
かなり後ろ向きの思考。しかし、時間的な余裕がある訳ではない。
弓月さんには今の俺の心が伝わらないように、小さく肩を竦めて見せながら微笑みを返し、喧しい小学生の方に向き直る俺。
「あんた、本当に死にたいのなら、さっさとこの封印を解きなさいよ!」
そうしたら、次の瞬間にはあっさりと沈めて上げるから。
先ほどからかなり物騒な台詞を口にし続けるさつき。但し、眠らせるとか、沈めると言う単語の意味をそのままの意味として受け取るのなら、封印を解いた後の事はあたしに任せて後ろで寝て居ろ、……と言う意味にも取れる内容。
少しの笑み……弓月さんに見せた笑みとは別種。弓月さんに魅せた笑みは、ねぎらいや感謝の意味。これは有希や万結に魅せる笑みに近い物。対してさつきに見せるのはハルヒに魅せる笑みに近い物。
少しからかってや
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