第6章 流されて異界
第137話 呪詛返し
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――ん、ん、んぐぅぅるる……え るぜぅるるるもん なうるぐむ るぜるもんんぉ
先ほどまで頭上に広がって居た、まるで降るような星空。天の狼は一際強い輝きを放ち、星空の狩人が想い人と出逢う。冬の澄んだ大気に相応しいパノラマが、何時の間にか濃い霧に覆われ、周囲は暗く冷たい闇の気配に沈む。
そう、闇に沈んでいた。
まるで夜の海面の如く、ゆらゆら、ゆらゆらと闇が揺らめいていたのだ。
その粘性の強い液体のような、ぬめりとした闇が蟠る世界に響く――
――アラハバキ召喚の祝詞。
――るぅぅうとぉおん いいどぉぉえ さ、ささちぃぃぶ おぅびひぃぃ せぇるぶるん
……いや、これは違う。高く低く響く血を吐くかのような異形の叫び。最早これは人の発声器官で再現出来る声などと言う生易しい物ではなくなっていた。
そうして……。
周囲には俺が発生させた風が渦巻く。闇の中を滑るように、夜の気配を斬り裂くように俺たちを護る神聖な風。
しかし――
しかし、その時、術により創り出された風の音に、異界の調べ……犬神使いの青年が発する祝詞以外の危険な声が混じり始めていた。
そう、それは正に異世界の調べ。まるで地の底より響く怨霊の叫びの如きそれが、深き闇に涼む……凍える世界に鬼哭啾々と成り渡る。
これは……。
これは、犬の遠吠え。遠く、近く。それが連なり、重なり、魂すら冒涜するような調べを作り上げる。
怨、穏、恨。ただひたすら続けられる遠吠え。
ひとつひとつに籠められた呪の程度は低い。しかし、それが千、万へと重なれば、これも巨大な呪を作り上げる。
我知らず口元に浮かぶ笑み。確かに現状は最悪の状態なのだが、これで、この高坂の地で発生し続けていた事件が、奴らの企みだったと言う事だけは確認出来た。
確かに厄介な連中である事に間違いはない。但し、あの犬神使いの後ろに居るのが奴らならば、この企みが簡単に成功しないような仕掛けが施されている可能性の方が高い。
その事が、改めて確認出来たから。
ここまでのアイツ……犬神使いの策は完璧。敵対者の俺は、急造ペアの弓月さんと共に足止め役のさつきに掛かり切り。
その他の戦力。万結や有希はハルヒや弓月さんの従姉を護る為に旅館からは離れられず。
水晶宮や天の中津宮からの応援は高坂の街の方の警戒。そもそも、この手の邪神召喚の儀式が行われる時は、他の悪しきモノも蠢く可能性が高い。そんな諸々の対処の為に呼び寄せた戦力は、街に放たれた犬神の対処に忙殺されている可能性が高い。
普通の場合なら、この召喚の儀式は成功する可能性は高いでしょう。
但し、どう考えてもこの儀式には根本的な部分に大きな欠陥がある。このままでは絶
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