41.魔導を極めし者
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だが、ボードゲームでは何を考えているのか簡単に見据えることが出来る。彼はそんな神のことを個人的に気に入っていた。
かの神は他の神と違ってあまり世界に興味がない。地上の人間も勿論だが、天界に関しても『昔から』興味が無さそうにしていたのを彼は知っている。時折人に興味を持つこともあるが、それも一時的だった。正味、彼は最初にこの神に『誘い』をかけたとき、返事には全く期待していなかった。
しかし、この神は乗った。
「今でも不思議に思うよ。君はどうして僕の話に乗ったんだい?」
『話のスケールが余りに大きかったからね。君の夢の行く末には、私にも興味があった』
「本当にそうかい?君は今の世界が嫌いという訳でもないだろう。むしろ『人のように生きる』ことを好んでいるようにさえ見える。君の気に入っているものと僕の目指すものは相対することも、聡明な君には分かっていた筈だ」
『そうだね。私はこの世界に満足したこともないが、不満に思ったことも一度としてない……君は、大いに不満の様だが』
こつり、とチェスの駒が動く。彼はほう、と唸った。神の差した一手が、追い詰められた陣に風穴を開ける可能性を示したからだ。
「不満だとも。尊きものを尊く扱えない不幸が、この世には満ち過ぎている。そしてその大きな源となっているのは、静止した刻の中で傲慢さばかりを肥大化させた連中のせいだ。正直、ダンジョンの主には同情すら覚えるよ」
連中からすれば、ダンジョンなど体のいい遊び場でしかない。莫大な財を生み出し、様々な欲に満ちた人間がひっきりなしに押し寄せ、傲慢の源を分け与えられた人間たちは時に思い上がり、時に傲慢になり、そしてその過ちに手遅れになってから気付く。
神を憎むあまりにこのような戦場を作り上げたというのに、その戦いこそが相手の望んでいた事。これほど屈辱的なことはない。迷宮の主は果たしてそれに気付いているのだろうか。
「僕は――神のことが嫌いではない。勿論人間も嫌いではない。むしろ好ましくさえ思ってる。彼を見給え、あの純真な心の暴走を」
近くの鏡には、オラリオで暴れては二人の冒険者に妨害される巨大な鎧とその傀儡たちが暴れる光景が投影されている。チェスを続けながらも、彼はその様子を心底愛おしそうに見つめる。
「秩序からは逸れているかもしれない。しかし、人の心とはもとより秩序で縛りきれるものではない。彼の想いはどこまでもピュアだ。愛おしくさえ思うよ」
『その割には、実験台のように使っていたようだが』
「仔細は彼に任せた。それに――今、彼の心には何の迷いもない。100%……不純物を取り除かれた美しき覚悟。自ら望んでその覚悟に到った。それは死より遙かに価値のある瞬間だ」
『………まぁ、それが君だからね。それよりも約束は守ってもらうよ』
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