巻ノ三十二 会見その三
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「よいな」
「畏まりました」
「では既に準備は整っています」
「それぞれの場所に着き」
「敵を待ち受けるのですな」
「うむ、そして城に帰ったらな」
幸村は十人にさらに言った。彼もまた徳川の軍勢を見ているが毅然としていて一点も怯えた様子はない。
「まずは飯じゃ」
「飯を食い、ですな」
「そのうえで」
「英気を養い」
「そして、ですな」
「うむ、勝つ」
まさにとだ、こう言ってだった。
幸村は今は去ることにした。その彼に信之が言った。
「しかし、敵であってもな」
「徳川家はですか」
「よき家であるな」
こう言うのだった。
「それを実感した」
「陣に入り」
「うむ、それで余計にな」
「そうですな、この戦を凌げば」
その時にどうするのか、幸村は言った。
「我等は徳川家とは」
「戦をするべきではないな」
「むしろ近くのどの家ともです」
「戦はせぬに限るな」
「戦は誰も幸せにはしませぬ」
幸村は苦い顔と声になり言った。
「家も人も滅ぶだけです」
「そうじゃな、民も迷惑を被るしな」
「ですから」
それで、というのだ。
「戦はないに限ります」
「全くじゃな」
「はい、ですからこの戦の後は」
「徳川家ともな」
「戦はせぬに限るな」
「そうです、しかしです」
「今は戦わねばならん」
強い声でだ、信之は弟に言った。
「そして戦うのならな」
「はい、絶対に」
「勝とうぞ」
「そして家を残そう」
こう話してだ、そのうえでだった。
二人は幸村の家臣達と共にだった、今は城に帰った。そして昌幸に話の一部始終を話した。すると昌幸は。
二人にだ、こう言った。
「鳥居元忠殿は噂通りじゃな」
「はい、非常にです」
「立派な方です」
信之と幸村は父にすぐに答えた。
「徳川家ならではの」
「勇と義を兼ね備えた方です」
「そうか、しかしな」
ここでだ、昌幸はこうも言った。
「徳川家の家臣であられるならな」
「そこにですな」
「狙い目があると」
「今敵将はその鳥居殿でじゃ」
昌幸はさらに言った。
「軍師はおらぬな」
「はい、見たところ」
「そうした方はおられませんでした」
「どうも皆武辺の御仁ばかりで」
「策を使う方はおられませぬ」
「徳川家は武の面が強い」
昌幸は徳川家のことを看破してみせてもした。
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