Side Story
少女怪盗と仮面の神父 3
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がきっちり閉まるまで見送りを受けたミートリッテは、首を捻りながらも何食わぬ顔で十数歩分外門に近付き……突然 ハッ! と顔を上げ、教会の裏手へ走り出した。
芝生を蹴る音は風が消してくれる。誰かに見付かる前に、敷地内の様子と崖の高さを把握しておかなければ。
「よくよく考えてみたら、これってすっごく良い機会じゃない? まさかネアウィックで……とは思わなかったけど!」
全身を刺す物騒な視線が無くなり、呼吸が楽になったおかげか。外へ出た途端、ずっと前から試してみたかった事を思い出したのだ。
それは、怪盗になりたての頃。
舞台劇の存在を初めて知ったミートリッテがハウィスに劇話の詳細を尋くと、彼女は笑ってこう答えた。
『大半は崖から落ちて終わるわね』
犯罪者を追い詰めても落ちる。愛し合う男女二人組を追いかけても落ちる。例え幻想世界の住民であっても、最終的にはやっぱり落ちる。
とにかく落ちて終わる劇話の舞台。
それが役者の聖地、『崖』。
劇話の説明としてはなんだかいろいろ端折られた気もするが、其処に到る経緯や結末よりも、無謀としか思えないその危険な行為ただ一点が、ミートリッテの心を異常なまでに魅了した。
断崖絶壁から海への落下。
通称「崖ドボーン」。
村民として実行すれば確実に怒られ、心配を掛けてしまう。
でも、怪盗としてなら?
怪盗の仕事場は常にネアウィック村より内陸部。崖はあっても、下は地面か良くて川だった。
でも、此処はちゃんとした海。どう見ても海だ。
自分が住む村で泥棒なんてしたくはないが、こんなにも好条件が揃っていては期待を膨らませるなというほうが無理な話。
押し返す風と整列する木々の間を全力で駆け抜け、教会をぐるりと囲う白石の土台に突き立てられた鉄柵を掴む。一本一本はそれほど太くないが、間隔は片腕を通すのがやっと。高さは教会の半分くらいか。これなら、近くの木によじ登れば飛び越えられる。
崖先はどうかと柵の向こうを見れば、人間一人を支えるには十分な足場があった。
「素敵! あそこから覗いてみたいなぁ、崖下」
ちょっとだけなら……いや、今は駄目だ。昼間の海岸には人が多い。万が一見付かってしまったら騒ぎになる。夕方以降じゃないと。
「むー……。明るい内は見上げるに留めるしかないか」
名残惜しいが鉄柵を離し、細長く切り取られた空と海の輝きを目に焼き付け、敷地内をじっくり観察してから素早く立ち去る。
次に目指すは、この崖の下。
砂浜だ。
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