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想い人
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第一章

                          想い人
 俗にだ。人は好きな人を夢に見ると言われている。しかしだ。
 彼女、岩井静はこの時だ。居酒屋で深い溜息と共にだ。ビールを大ジョッキで飲みだ。 
 それからだ。こう同僚達に話したのだった。
「最近夢にね」
「夢に?」
「夢で何かあったの?」
「あの人が出るのよ」
 深い憂いに満ちた顔で言う彼女だった。
「ほら、お隣の半島のあの太ってて背が低くて」
「ああ、あのパーマでしかも変なカーキ色のジャケット着てね」
「しかもシルクの」
 普通シルクのジャケットなぞない。しかもカーキ色のとなると余計にだ。
 しかも太っていて小柄でパーマだ。尚且つだ。
「もう不細工な顔でね」
「あの人確かに顔悪いわよね」
「誰が見ても醜男」
「しかも額もつむじもきてるし」
「靴はシークレットシューズだしね」
「おまけに性格ときたら」
 その性格も有名だった。下手な日本人のタレントについて以上に。
「女好きで気紛れで暴君で我儘」
「尚且つ贅沢三昧」
「国家予算の二割を自分の為に使ってるらしいわね」
「どのギャグ漫画の独裁者なのよ」
「東映の特撮ものの悪役?」
 同僚達も口々に言っていく。
「まさかあの人があんたの夢に出て来てるの」
「それもいつも」
「そうなのよ。私だってね」
 飲みながらだ。静は言うのだった。
「彼氏とかが夢に出て欲しいわよ。けれど彼氏よりもね」
「あの将軍様ね」
「将軍様ばかり夢に出るのね」
「正直精神衛生上悪いわ」
 それもかなりだ。多くの人間にとって生理的に受け付けない顔なのは確かだ。
「朝起きた時の憂鬱さときたら」
「わかるわ。私も夢に出て来たことあるから」
「私も」
「私もよ」
 ある意味日本のどんなタレントよりも有名人だった。少なくとも子供でも知っている位だ。それがいいことか悪いことかは別にしてである。
「あの軍隊の行進とね」
「あの如何にも膝壊しますって行進ね」
「あれ正直言って馬鹿な行進よね」
「軍服もださいし」
「自衛隊の方がずっと格好いいんだけれどね」
 それでもだった。インパクトの問題だった。
「あの行進と軍隊とミサイルね」
「もう何もかもが強烈なのよね」
「尚且つ音楽も耳に残るし」
「で、そういうのも全部あんたの夢に出て来るの?」
「将軍様を主役として」
「そうなのよ」
 まさにその通りだとだ。静は言う。つまみのししゃもを頭からかじりながら。
「将軍様がいつもどアップでね」
「聞いてる方がもう気が滅入るわ」
「尊師と同じ位嫌になる顔がアップって」
「もう嫌になるわ」
 話を聞いているだけでだった。そしてだ。
 それに加えてだった。静はさらに言う。
「しかもそ
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