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Rの証明
第一話  彼の友達
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言っても尻もちをつかせただけだ。怪我をさせるつもりなどなかった。ただ、自分の空間に入って来るなと拒絶したのだ。

 動かない少年。止まる時間。
 ほら、どうせ人間などこの程度だ、と落胆する心。もう興味が無いと、ナツメはケーシィ人形を抱き締めてそっぽを向いた。
 しかし……彼はその時笑った。

『すごい! ねんりき!? サイコキネシス!? いいなぁ! ポケモンと同じことが出来るなんて!』

 驚いてレッドを見ると、彼は満面の笑みで立ち上がってナツメに笑い掛ける。そして……ぽん、とモンスターボールから一匹のポケモンを呼び出した。
 可愛くてふわふわした、小さな小さな友達を。

『初めまして、ボクはレッド。この子はイーブイ。ヤマブキシティでしばらく暮らすことになったんだ。よろしくね』

 ゆっくりと差し出された手をどうしていいか分からなかった。
 疑心暗鬼にかられた彼女はいつもの通り、自分を守る為にテレパスで少年の思惑を見透かそうと試みる。しかしそこには……眩いばかりの、まっさらな心しか無かった。

 そんな心を持った人間になど、出会ったことが無かったから。
 少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしくて……彼女は俯いてしまった。
 そんな彼女の手を握って、少年はまた笑う。ナツメは、その笑顔に見惚れた。

『一緒に遊ぼう? 今度はボクが得意なことを見せる番だから』



 出会いの記憶は甘い。
 しかし彼と出会って家族の冷たさを思い知らされたのも事実。
 微笑ましいその、昔はあったはずの遠い食卓風景に、ナツメの心はギシリと軋む。

 だが、ここ最近でそれも乗り越えた。
 テレパスで読んだ風景に嫉妬しつつも、目の前の少年を憎むことは出来ない。それが筋違いだと理解出来るくらい彼女は聡明で、何より彼との時間をそんなくだらない事に費やすのが嫌だった。

「……帽子」
「ん、次は飛ばされないようにね」
「うん」

 受け取り、被りなおした帽子を目深く引き下げる。
 恥ずかしそうに彼女は腰に付けた手鞄の中から取り出したモンスターボールのスイッチを押して、いつものように彼女のパートナーを呼び出した。
 紅い光と共に現れた小さなキツネのようなポケモンは、眠たげな目を擦って地面に座っていた。

「ケーシィの毛づくろいお願いね」
「うん。じゃあズバットの方は頼むね」

 仲良さげに、少年と少女は二人で地面に腰を下ろした。
 なんでもない日常の風景。友達同士の優しい時間。
 二人の間に広がる穏やかな空気は、今日もまた、誰にも邪魔されることなく続いて行く。


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