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鎮守府の床屋
前編
9.季節外れの恐怖
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午後10時。昨日、北上が自分の部屋から火の玉を見たと証言した時間だ。

 それにしても、艦娘の三人は皆、対照的な反応をしていた。各々が万が一の戦いに備えて、戦闘がこなせるだけの必要最低限の艤装で武装してはいるが……

「にひひひひひ……夜戦が出来る……夜戦……夜戦……!!」

 川内は、夜戦が楽しみで楽しみで仕方ないといった感じで目をギラギラと輝かせ、舌なめずりすらしている。お前はそんなに夜戦がしたいのか。俺なんかは出来れば何事もなく終わりたいのに。

 一方のビス子は深刻だ。

「べとべとさんが出てきたら……おかえりくださいませご主人様とか言えばいいのよね……ぬらりひょんが出てきたらどうすればいいの……知らないうちに上から目線で説教されるわ……恐ろしい……」

 と昼間と同じくぶつぶつとうわ言のように、妖怪に出くわした時の対処法を反芻していた。まるで、今まさに定期試験が始まる寸前の中学生のようだ……でもビス子、なんで妖怪に出くわしたときの対策ばっかり取ってるんだよ……。

「クマー。楽ちんだクマー」

 一方で、意味不明かつ横暴なのはこいつだ。この妖怪おぶさり女は、提督さんからの『ハルに貼り付け』という命令を忠実に守って俺の背中におぶさっており、おれはちょうど球磨をおんぶして歩いている形になっている。

「なんで俺がお前をおんぶせにゃいかんのだ」
「提督の命令だクマ。球磨はハルに張り付くのが任務だクマ。キリッ」
「自分で歩けよ。今のお前、艤装つけてるから若干重いんだよ」
「周囲の索敵で歩くヒマもない球磨に歩けとは、横暴な床屋だクマッ!」
「横暴はお前じゃねーか!! この妖怪おぶさり女めがッ!!」
「妖怪?! 妖怪が出たの?!! 妖怪おぶさり女ってなに?!!」
「なに夜戦?!! おぶさり女と夜戦?!!」

 方や自分で歩こうともしない妖怪ものぐさ女……夜の戦いが一番強いはずのビス子は妖怪の影に恐れおののく非力な少女……挙句の果てに『妖怪』と『夜戦』、似ても似つかぬ2つの言葉を強引に聞き間違えるほどに夜戦に命をかける妖怪夜戦女……提督さんすんません……俺にとっては、これは荷が重すぎる任務です。

 林の探索をはじめてはや十分。球磨をおんぶしているせいで早くも俺に疲れが見え始めた頃……

「はははははははははははハル」

 突然、ビス子が俺の方を見ないで、少し涙目で話しかけてきた。

「ん? どうした?」
「あなた……ひょひょひょっとして、ちょっと恐れおのののののいてるんじゃない?」
「? いや?」
「な、なんだったら……この私ががが、手をつなつなつなつないであげてもいいのよ……?」

 ……あーなるほどね。怖いから手を繋ぎたいのね。

「分かった。実を言うとちょっとこわい。手をつ
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