くだん
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「…く…くだん…」
錆が浮いた真鍮のボールの中で、粘液に塗れてそれは呻いた。
「……はあ」
朝食の目玉焼きを作るために割った卵の内部に、それは居た。体の割には妙に大きい目玉をぎょろりと動かして、俺を見ている。…超、ガン見だ。
『千葉牧場の健康たまご』と書かれたパッケージに、元々それは収められていた…はずだ。自然放牧で伸び伸び育った鶏が産んだ健康たまご。こういう卵には稀に有精卵が混ざる…とは聞いたことがあったが。
くだんが混じるなぞ、想定外だ。
くだんてアレだろ、普通の家畜に混じって突然生まれてきて、予言を残して死ぬっていう。こんな気軽なカンジでパックの卵に混ざってる場合か。とにかくこんなものを見たら、まだ部屋で寝ている嫁がひきつけを起こす。妊娠8ヶ月目の、大事な体なのだ。俺がボウルを持ってあたふたと右往左往していると、くだんは呟いた。
「と、とおからずうまれるおまえの、こども…そのせいべつは…」
「女の子だが?」
「………!!」
「…妊娠20週目で分かるんだよ、今は。知らんのか」
「おっ…おまえなんてことをっ…」
奴は卵白にまみれてぷるぷる震えている。…俺は予言をネタバレしてしまったらしい。
「さ、さいあく…さいあくだ…」
ボウルの中で、粘液まみれになって『さいあく、さいあく』呟きながらぷるぷる震える、ひよこのなりそこないのような何か。不吉極まりない情景だ。
とりあえず、こいつがあの『くだん』なのだとしたら、そろそろ死ぬはずだ。死んだあたりで、嫁に気づかれないようにこっそり捨ててこよう。
「なぜだ…なぜだ…」
それから5分ほど様子を見てみたが、一向に死ぬ気配がない。あいかわらずぷるぷる震えながら、なぜだ、なぜだを繰り返している。
「何が、なぜなんだ」
「しねない、しねない…」
「死ねないってお前!?」
「しくった……しくった、からか……」
予言しくったから、死ねなくなったのか!?
「いやいやいや、どうすんだよお前!!くだんて死ねないとどうなるの!?」
「しらん…」
「じゃ、じゃあ何でもいいから予言し直せば!?明日の天気とか」
「よげんは、いちどしかできない…しくったわー…」
しくったわー、じゃないだろうが。
「えっと…よかったら、殺そう、か?」
「いいが…そのへんの、これからうまれるものに、くだんがうつるぞ」
「その辺の生まれる者…」
―――俺の子じゃねぇか!!
ダメだそりゃ絶対ダメだ。我が子が生まれた途端不吉な予言残して死ぬとか絶対無理だ。
「じゃあどうすりゃいいんだよ!!」
「あー……しくった……」
奴は観念したかのように粘液の中を這い回り始めた。ああぁもうどうすりゃいいんだよ。ペットとして飼うにも気持ち悪過ぎだよ。ていうか。
「…お前って、死なずに育つとどうなるの」
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