Side Story
少女怪盗と仮面の神父 2
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ピッシュが注ぎ口周りを洗浄布で拭い、軽く蓋をして別の簡易机に並べ直す。
そうして完成した五十本ほどの商品は、暫く常温で冷ましてから蓋を閉め切り、未開封の印を貼り付けて出荷される。
マーマレードは間引いた果実を利用した副産品だが、商品としては果実そのものより扱いやすく、評判も上々と聞く。ごく稀にはこれを買う目的で村を訪れる客もいるのだから、ありがたい話だ。
瓶詰め作業が終わったら直ぐ様鉄鍋と柄杓を洗って乾かし、空いた簡易机と一緒に倉庫へ片付ける。その間にピッシュが小瓶達を保管庫内へ移動させ、午後に控えた出荷と在庫の再確認をして管理室に戻った。
「終わりましたー!」
「お疲れさん。ほい、これ。オマケ」
終業の挨拶で訪れたミートリッテに、ピッシュが商品である筈のマーマレードを一瓶手渡した。しっかり封がされているそれは、先程ミートリッテが担当した分ではない。朝一番に彼が作った物だろうと気付き、慌てる。
「え……も、貰っちゃって良いんですか!?」
こんな事は初めてだ。幻でも見ているかのような疑惑と困惑と期待混じりの視線が、小瓶と陽に焼けたピッシュの顔を往復する。
「良いの良いの。薄給で働いてくれてるお礼だ。たまには、な」
「うわぁあ、ありがとうございます! 嬉しいぃ。ジャムとかお菓子とか、なかなか手が出せないから……ハウィスもすっごく喜びますよ!」
小窓から射し込む陽光に掲げた小瓶はキラキラ光っていて、まるで宝石だ。
宝物を手に入れた無邪気な子供みたいな笑顔を見せるミートリッテに、ピッシュは満更でもない様子で肩を持ち上げた。
「おう。姐さんにもよろしく言っといてくれ」
「はい! じゃあ、今日はこれで上がらせていただきます。また明日!」
「ああ。明日な」
ひらひらと手を振る雇い主に頭を下げ、貴重なマーマレードを大事に抱えて管理室を後にする。
明日のトーストは、贅沢な今日よりもっと贅沢だ。楽しみすぎてにやにやしてしまう。
これで教会へ行く予定などが無ければ、もっともっと幸せな気分でいられたに違いない。
「ぐぬー……私の満点な幸せを返しやがれ、海賊共めぇ」
果樹園の敷地を一歩出たら、途端に気が重くなった。
義賊としてじゃない泥棒行為なんて、投げ出せるものなら即刻投げ出したい。岩の重りを付けたロープで縛って海の底へ沈め、一切を忘れてしまいたい。
だが、海賊の『依頼』を無視して家へ帰る訳にはいかない。
怪盗の正体が暴かれるだけならまだ良……いや、良くはないが、その時は周囲の人達を一方的に利用したと言い張れば裁かれるのはミートリッテ一人で済むかも知れない。実際誰にも話してないんだし、本当に何も知らない人達が裁かれる正当な理由なんか無い筈だ。
しかし、海賊の狙いはミートリッテ本人よりも、
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