38.悪霊の軍団
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懇切丁寧な説明で非常に助かりました」
『新聞連合』のパラベラムは神妙な顔で頷いた。これでもう一度説明しろなどと余計なことを言ったら腕の一本でも捻ってやろうかと思っていたが、餓鬼の癖に物わかりはいいらしい。これで犯行動機、犯行内容を伝え終えた。もうこれ以上喋ることもないだろう。
「では、話は終わりだ。とっとと出て行ってもらおう」
「……一つだけ、まだ重要な事を聞いていません」
「なんだと?」
パラべラムは間髪入れずに僕に質問を投げかけた。
「――貴方はこれからどうするんです?態々『新聞連合』に自分の情報を渡したのは……何故です」
「ふむ……」
「貴方が8人の人間を殺害した理由も方法も分かりました。おそらく8人目も死亡したのでしょう。ならば目的は達成されている。俺にそんな内容を話さなければ、殺人容疑をかけられるリスクを減らしてそのまま職人だって続けられるかもしれない。そのリスクを冒してまで俺をメッセンジャーボーイにしたのは何故です」
一瞬苛立ちの余り殴り飛ばしてやろうかと考えたが、確かにそれを伝えておいてもいいのかもしれない。我々はどこから来た何者で、どこへ行くのか――この街のどこかで聞いた言葉だ。その先人の言葉に習い、向かう先を示しておくのも吝かではない。
「百合の花を散らせた罪人の数と死んだ人間の数がまだ合わない。……僕にはもう一人、この手で殺さなければいけない存在がいるんだよ。そして……いや、いい。とにかく僕は僕の言葉を残す人間を用意しておきたかった。それだけだ」
「………分かりました」
パラベラムはそれ以上聞かずに椅子から立ち上がると、ハンチング帽をかぶり直して、換気用に空けていた工房の窓に近づく。慣れた足つきで窓の外に出ると、顔だけを窓から出す。
「俺……どんな結末になろうと、貴方の語った真実は絶対に手放しません。こんなことを言うのは人として間違ってるのかもしれないけれど、ご武運を……しからば!」
一礼して、パラベラムは路地裏に消えて行った。
結局、この神聖なる工房を汚したことを咎めないまま送り出してしまった。最初は強い殺意を持っていた筈なのに、何故だろう。まぁ、いい。最後の仕上げを始めよう。作業台の中に大量に入れてあった魔力回復ポーションも魔法の実験ですっかり空になった。その中の中身が残った一本を抜き取り、一気に飲み干す。
酷い味だ。モルドのミルクティーで口直しをしたい。モルド――僕は何故モルドにあれほど怒っていたのだろう。分からない。いや、もう考える必要もなくなる。仕事前だと言うのにやけに体に倦怠感が圧し掛かるが、全力で堪え、ありったけの魔力を絞り出す。
『法則の糸を手繰り寄せろ。我が手は影を支配し現を動かす悪霊のしらべ――宿せ、操れ、複製された現実たちよ―
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