38.悪霊の軍団
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れる。
『ウルカグアリ・ファミリア』――散々鍛冶界隈を回された挙句に流れ着いた工芸ファミリア。このファミリアでとうとう彼の努力が反映される。鍛冶関連で弱いこのファミリアで、意外にも彼の鍛冶などに関する知識が大きな影響を及ぼした。憧れを追い続けて早10年、やっと咲いた職人としての華だった。
運気は彼に向いていた。仕事は充実し、理解ある神を主神に持った。それから親友とある冒険者に出会い、その仲を急速に深めていった。
そして―――。
――――――。
結局、彼はその後10年近く、鎧を作れないまま時を過ごした。
作ることが出来ない環境にあった時期が数年、作れる精神状態になかったのが数年。
忌まわしくも絡みつく過去に一応の区切りをつけたころには、冒険者を始めて20年が経過しようとしていた。
気が付けば年齢は既に40を過ぎ、今となっては工房に他のファミリアを迎え入れる気概も湧いては来ない。まるで工房という名の鎧に身を包んで外を拒絶したかのように、アルガードはここにある。消えずに燻るの鎧への情熱に薪をくべ、全てから目を逸らすように仕事を続けていた。
だが、つい一か月前――燻る俺の熱に、憎悪という名の油を注ぎ込む出来事が起きた。
「………続けてください」
目の前の少年――パラベラムは、ごくりと唾を呑み込みながら、ペンとメモ帳を握ってこちらをまっすぐに見つめてきた。メモ帳の表面は手汗でくしゃくしゃになっているが、文字だけはしっかりと書きこまれ続けている。若いながら真摯な瞳だ。
若いというのはいい。どこまでも自分に正直で真っ直ぐにいられる。
人生で一番無謀で、脂の乗っていて、未来に繋がるものをたくさん抱えて生きている。
だからこいつを生かしている訳ではない。本来ならば神聖なるこの作業場に土足で上がり込んでいる時点で反吐が出る思いだ。だが、この男もまたあの召使いと同じように僕に益がある。だから追い出さずに置いてやっているのだ。
僕がこれから目的を終えて報われるまでの道筋を、僕以外の愚図共が何も知らないまま終わるのが面白くない。だから僕は最後の日に僕の工房に訪れた哀れな少年を語り部に選んだ。天の齎した偶然か、少年は僕が『確認』の為に読んでいた新聞とやらを発行する『新聞連合』の人間だという。
せいぜい、僕の崇高なる仕事を面白おかしく書き残して飯の種にでもするがいい。
真実をそのまま伝えるのならそれも好し。
内容を改竄するならしてもいい。僕はそれを地獄の淵で嘲笑うだけだ。
ただ、僕が殺したという事実が世界に残るのならばそれでいい。
= =
アルガードの部屋の扉は、床に十数個も並べられた美しい
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