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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
36.『悪』の重さ
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 勇気を振り絞って、レフィーヤは問う。

「泥棒は、悪い事ですよね」
「一般的にはそうだね。俺も泥棒はどうかと思う」

 言葉を区切ったアズは、しゃがんでレフィーヤに視線を合わせた。

「――でもね。残念だけどこの世界ってのは善人だけでは回らないんだ。小さな悪の方がより大きな善を手助けすることもある。曰く、必要悪に近いかな」
「悪はよくないことです。人殺しも泥棒も立派な罪で、罪は悪じゃないんですか」
「それでも、より大きな悪を捕まえるためには小さな悪事を見逃さなければいけない時がある。正義と悪の二元論と一般の秩序は必ずしもイコールではない……むしろ秩序は正義と悪の狭間で成立するものだ」
「そんな理屈…………」

 否定はできなかった。ファミリアは勢力を拡張するために卑怯な真似や礼儀知らずな行為をすることもある。自分の主神であるロキとて、昔は邪魔なファミリアを蹴落とすために随分策を弄したと聞いたことがある。これを行ったロキを悪とするならば、確かに罪を放置することで得られるものも多いのかもしれない。

「ここの家主は小さな犯罪を犯してはいるんだろうと俺も思うよ。でも、だからって本当に罪を立証できるかも分からない家主を捕まえる事が俺達のやるべき事かな?ウィリスさんのことは後回しでいいのかい?」
「泥棒と、殺人事件を天秤にかけろってことですか……卑怯ですよ。そんなの殺人が重いに決まってる。選択肢を無理やり一つに絞らせただけじゃないですか。納得なんて……」
「……まぁズルいこと言ったのは悪かったけどさ。ここの家主には家主なりに事情があるし、捕まえない方がいい犯罪者ってのもいるにはいるんだよ。オーネストみたいに、さ」
「オーネストさんが………?」

 ――そうだ、オーネストとて一度は指名手配までされた存在。暴力事件を含めてやらかした罪の数は数知れない。だが、同時に彼によって助けられた人間も存在する。ロキ・ファミリアは今までにかけられた迷惑を上回る程度の働きをしてもらっているし、オーネストの館に集う人々の中にも彼に助けられた者はいる。
 『新聞連合』にしたってそうだ。オーネストの協力なしに大きな組織を作ることは難しかっただろう。『怖いけれど悪い人ではない』と感じていたオーネストこそ、まさに人を助ける悪人と言えるのではないだろうか。
 そして、アズもまたオーネストに助けられた人間の一人だと自分で言っていた。

「……すいません、変な事を言ってしまって。分かりました、その情報屋さんの小さな罪には目をつぶります。トローネさんもいいですか?」
「よくはありませんけど………よく考えたら捜査の主導権はあくまでアズさんですしぃ………」
「うっ………ちょっと、やめてよその視線。俺が悪い奴みたいじゃん」

 じとーっとした視線
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