36.『悪』の重さ
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らずまさか傘立てと魔石スタンドまでパクってるなんて!考えられません!」
顔を真っ赤にしてトローネがぶんぶん腕を振る。この情報屋、情報屋というより泥棒屋と呼んだ方が正しいのではないだろうか。ギルド所属のトローネとしてはこんなにも自分の所属組織の備品を盗まれているのは許せないのだろう。
傘立てなど何に使っているのかと思いきや、どうやら傘立ての上に平らな木材を括り付けて即席の机に改造しているようだ。微妙に工夫している辺りが余計にイラッとくる。しかし、興奮するトローネに対してアズは素っ気なかった。
「無理だね」
「なんでっ!?」
「何でって、証拠がないもの」
「現物があるじゃないですか、今ここに!」
「だからさぁ、その品を本当に小屋の持ち主が盗んだかどうかは分からないじゃない?この辺の土地では盗品がどんどん回されて再利用されるなんてザラだからね。正直、あいつが盗んだかどうかは分からないんだよ」
「いやでも!見れば盗品だと分かる訳でっ!しかもこんなに大量に自分の家に抱えてるのに知らんぷりはないでしょ!」
「そもそもダイダロス通りの家なんて誰が所有しているかもよく分かんないんだよ?この小屋だって地図や土地管理書には載っちゃあいない。誰のものか分からない小屋にある盗品の盗み主がこれから会う情報屋だと直接的に証明する証拠はない」
やったんだろうと想像はつくが、いくらギルドでも確たる根拠なしにこのような無法者の巣窟に手を出す訳にはいかないだろう。しかし、アズの物言いはどうにも納得できないしこりが残る。
「ぐぐぐっ……な、なら神様に嘘かどうか判断してもらえばいいじゃないですか!」
「神様に嘘は通じないけど、隠し事をするのは簡単だよ。質問にイエスノーで答えなければいい。『さぁ、どうでしょう?』ってはぐらかしたり『今日は天気がいいね』って全く違う話を延々とし続ければいい。或いはそうだなぁ……『俺はやましいことなんてしてません』って言えば五分くらいの確率で神を騙せるよ」
「し、してるじゃないですかやましい事!泥棒がやましいことじゃないことぐらいは本人だって分かってる筈ですよ!」
「そこがミソでね。『本人がそれを微塵も悪い事だと思っていなけれな神は勝手に勘違いする』んだよ。例えば生きるために略奪をする必要のある環境で育った子供は、略奪が悪い事だという感覚がない。魂は嘘をついていないから、神はその『ずれ』を見ぬけないという訳さ」
トローネは段々と言い返す言葉が減っていき、とうとう俯いてしまった。
しかし、今のアズの話は「罪を立証できない」という話であって、「彼は泥棒ではない」という話とは全く違う。今のアズはまるでこの小屋の持ち主の行為が正当だったと言っているように聞こえた。
「…………アズさんは、泥棒の肩を持つんですか?
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