36.『悪』の重さ
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煌びやかで巨大な金閣寺と、それに比べれば小ぢんまりしているが洗練された銀閣寺。どちらも室町文化を代表する木造建築物だが、このオラリオではアズ以外の誰にも通じない固有名詞と化している。怪訝そうな顔をするルスケの目線になんとなく疎外感を感じた。
玄関と一体化した巨大な鎧は、よく見ると基本設計はどっかの馬鹿がやったらしい。最初は鎧として作られ、後になってアルガードが『改造』したのだろう。金のガネーシャ像が大仏と同じ方法で鋳造されたのに対し、こちらは純粋に巨大な鎧として手作りされているらしい。
作業機械もガスバーナーも溶接機もないこの世界でどうやってこんな代物を手作りしたのかは謎としか言えないが……まぁ、物作りに関しては『万能者』アスフィと双璧を為す男だ。想像を絶する方法で何とかしたのだろう。
入り口を前に、ブラスはルスケに最終確認を取る。
「これからアルガードに接触する。まだ犯人と確定したわけではないから最初は下手に出ることにする。仮に犯人だったとして今日一日であっさり白状するほど素直でもあるまいから、帰るときは収穫が無くとも帰るぞ」
「うッス!むしろさっさと帰りたいッスけどね……」
「相手は殺人犯の可能性があるが、いざという時は相手が手を出す前に殺して安全を確保する。これはロイマンからの依頼書の優先順位において『犯人の逮捕』より『犯行の未然防止』が上回るからだ」
「………うッス。納得はできねぇッスけど、俺は守ってもらう側なんで任せるッス」
「自分の判断で人間の命が左右される事実からは目を逸らすなよ。お前達ギルドは、この街でそういった立場にいるんだ」
「……アンタはキレーなのに冷たい女ッスね。『酷氷姫』みたいッス。どーせなら優しく慰めてほしいッス」
「甘えたこと抜かしてんじゃねぇ。誰も彼もが自分に優しいと思ったら大間違いだ」
これ以上の問答は無用と思ったブラスは鎧の頭の鐘をガラガラと鳴らした。
しばらくの間を置いて、誰かの足音が建物内から近付く。
「はい、どちらさまでしょうか?」
顔を現したのは、栗色の髪を短く切り揃えたタキシードの青年だった。中性的な顔立ちと高めの声。彼の目線はまずブラスに向き、次にルスケの身に着けるギルド職員の制服に向き、改めて目線をブラスの方に戻した。
「ここは『ウルカグアリ・ファミリア』所有の工房で間違いないな。アルガード・ブロッケはここにいるか?」
= =
貧民街には『情報屋』が無数に存在している。
そもそも――普通、貧民街というのは総じて治安が悪く、通常の都市ではなるだけ存在して欲しくない空間だ。同時にこの街にはそんな不要な存在を強制的に追い出せる力を持ったファミリアが数多
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