36.『悪』の重さ
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れるだろう。
では、この場合『非人間的な意志』とは何か。それは嘗て信仰や主義と呼ばれた共通意識のせめぎあいの狭間に存在したものであり、今ではより直接的な――神と呼ばれる超越存在に対する絶対的信仰へと移ろいでいる。眷属という派閥を形成する一人として数多の人間の中から神に見定められた運命の子として日常的に暮らす一般人と隔絶した伸び代を与えられた彼等は、肉親を差し置いて神に陶酔する者も少なくない。
ヨハンは恐ろしく思う。
神が冒険者に恩恵を与えるというのは、神が人の心を支配する事なのではないか。
疑問に思う事を疑問と思わせぬよう、間違ったことを間違ったことだと感じにくくするよう、恩恵というのは冒険者の思想をごく微量に、極めて自然に誘導しているのではないだろうか。人間はそれに疑いを持たずに無邪気に神に群がり、肉体を作りかえられ、思考を作り替えられ、人間ではなくなっていっているのではないのか。
そもそも、降臨した神々は『暇つぶしに降りてきた』のではなかったか。
それは、子供が気に入った虫を捕まえて戦わせるのと同じことではないか。人間とはつまり神たちにとってそのような存在で、本当は魔物とダンジョンがどうなろうが彼らの知ったことではないのではないか。
その答えの一端を示したのがウラノスだった。
『君臨すれども統治せず』。少なくとも彼だけは人間の事を虫と同列に見ていない。人間という種族を神とは違う独立した種族として礼を持っている。
(俺は人間でいい。人間に出来るやりかたで、人間に出来る事をやっていく。雷入りネックレスなんて代物を作れる化物に成り果ててまで、誰が神になんぞ仕えるかよ)
化物の問題は化物が片付ければいい。
あの冒険者共も、精々治安維持と後輩の護衛の為に働いてもらおう。
(あのエルフのお嬢ちゃんはさておき、残りの二人は筋金入りの化け物だ。精々金の分は仕事して、大事な後輩を守ってもらうぜ……?)
ヨハンは人間の命は大事だと思っているが、冒険者を同じ人間だとは思っていない。ただ、人間扱いしていた方が都合がいいのを良く知っているだけだ。冒険者が2人死のうが200人死のうが、彼は一般人に被害が出ていないのなら気にしない。
被害者の事は人間として――神というまやかしに気付いて手を逃れた存在として死を悼んでいるが、もしもこの被害者たちが現役の冒険者だったらヨハンはまるで真剣になる気はない。彼はつまり、そういう男だった。
= =
「………銀閣寺と金閣寺だな」
『新聞連合』から聞きだしたアルガードの住居に辿り着いたブラスは、思わずそう呟いた。
「は?金の寺院と銀の寺院?なんスかそれ?」
「いや……独り言だ。気にするな」
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