35.覗きこむほどに、深く
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を家族親族に対して発行する。しかしギルドの業務内容はあくまでオラリオ内にまでしか行き届かない為、既に壊滅したファミリアや街の中に近しい者のいなかった人の死亡認定書は行き場を失うことも少なくない。
オーネストがこれを持っていると言う事は、彼は既に100人単位の知人と死別していることになる。その人数は小さな村の2,3個分に相当する。一人の人間が普通に生きていくうえで、戦争中でもない限りは決して巡り合う事のない数字だった。
そして紙の殆どに行方不明者の報告者がオーネストだったことが明記されていた。
何も知らない人間ならこう思ったかもしれない。『オーネストが殺したのではないか』、と。
だがメリージアは直感的にこう思った。『オーネストは死の事実を残そうとした』、と。
冒険者の死人は多い。仮に殺人事件が起きても、その死体をダンジョンに放り込めば名誉の戦死。ダンジョン内で殺されても目撃者がいなければ名誉の戦死。ここはそういうことの起こる街だ。『死亡認定書』の中にダンジョンで魔物に殺された人が極端に少ないのは、そのまま放っておけばその人々の死の真相が永遠に失われるからだ。
態々そんな真似をしている以上、少なからず親しい人間がいた筈だ。もしかしたらこの中にはオーネストの本当の家族だっているかもしれない。もしもメリージアならば、この屋敷に訪れる『ゴースト・ファミリア』や愛すべき家主たちが永遠に帰ってこないと告げられる程の衝撃を何度も受けたことになる。
いつか、ヘスティアのファミリアになった白髪の少年が言っていた。苦しさを溜めこんだまま過ごしても辛いだけ――と。この紙切れの群集は、それを象徴する物のように思えた。
だとすれば、おかしいではないか。
死は離別だ。永遠の別れは悲しい。一般論だが、当たり前に人間が抱く憐憫の感情だ。そして親しい人間がこれほどに死ぬのは、人が極めて死にやすい環境にいるからだ。
時には人を助けもする優しさを持つオーネストから親しい者の命を奪ったのは、ダンジョンであり冒険者という職じゃあないのか。もしかして、彼が主神を持たないのは神が人を戦いに駆り立てるからではないのか。もしも推測が正しいのなら――オーネストはこのオラリオという街が、神が、そして冒険者という職業が、嫌いで嫌いでしょうがないのではないのか。
「オーネスト様は、なんで冒険者なんか続けてんだ……なんでオラリオなんかに居続けるんだよ……嫌いじゃねぇのか?憎くねぇのか?辛く――ねえのかよ………アタシには意味がわかんねぇよ」
オーネストは、何を思って紙切れに変貌してしまった死人たちを箱に仕舞い続けているのだろう。この紙を見た時、あの人はどんな顔をして、何を思っているんだろう。辛く、悲しく、弱音を吐きたいほどに苦しんでいないと――言い
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