34.彼岸をこえた小さな背中
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るほど、今は犯人を刺激する行動を取るべきではないと?」
「何所に誰の目があるか分からない。ここは波を立てないように静かに動くべきだ。大丈夫、俺やギルドの雇った手練れが速やかにアルガードを保護する。だからウルはなるだけ平静を装って、彼を保護する許可をくれ」
神に嘘は通じない。だからアズは敢えてアルガードへの嫌疑に触れず、アルガードが狙われている事を前提とした場合の本心として説得した。しばしの沈黙の後、ウルはその怒りを鎮めた。
「そうすれば犯人を見極めてこれからの凶行を止めるための対策も取れる、とおっしゃりたいのね。口惜しいですが、今の私は些か平静を保てていなかったようです……分かりました。主神として、貴方たちにアルガードの事を任せます。必ず……必ず守り抜いて頂戴」
強い意志の籠った瞳。彼の事を絶対的に信じている目だ。
事ここに到って、アズとトローネはほぼ同じ疑いを抱いた。
(本当にアルガードさんは犯人なの……?復讐心をもしも欠片でも持っていたのなら、主神ともあろうお方が気付かないとは思えない。だとしたら、犯人はアルガードさんの方ではなくて……!?)
(彼女の口ぶりからして、もうアルガードとウィリス以上には手がかりがない。だけどアルガードはファミリアという行動制限があり、ウィリスの方は不明……可能性が高いのは後者だな)
こうして、容疑者が一人増えた。
行方不明の男――ウィリス・ギンガム。もしも彼が復讐を誓っていたのならば――アルガードが狙われない保証はない。
= =
ぎしり、と脳髄が軋む。
これは痛みだ。生きていなければ感じることが出来ない痛み。僕の大切な人を蝕んだ痛み。大切な人が、二度と感じる事の出来ない痛み。痛み。痛み。狂おしいほどに求める痛み。しかし、その痛みが今の僕にはどこまでも心地よい。
震える手で焼き鏝を握りふらふらと作業台へ赴く。自分の体が言う事を聞かないような錯覚に苛立ちながら、作業台に着く。眩暈、頭痛、嘔吐感、あらゆる苦が僕を責め立てる。しかし、それでもいい。あの時の後悔と身を焦がす衝動に比べれば、こんなものは春風のようにぬるい。
ふと、作業台の淵から甘く優しい香りが鼻腔を擽った。
最近は花の香りだけが唯一ぼくを癒してくれる。僕の召使いが時々くれる花だ。彼女もこれを気に入ってくれている。仕事場に入って声を発するだけでも邪魔なあの召使いを追い出さないのは、この花を活けてくれるから。それだけだ。
足音が作業室の外から近付いてくる。
「失礼します。お花の取り換えに参りました」
「ああ………」
恭しく一礼した召使いの青年は作業台の花瓶を持ちだし、新たな花を生けた花瓶を置く。一分一秒でも花が部屋にないことが腹立たしいため
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