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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
34.彼岸をこえた小さな背中
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フェール。当時としては珍しい小人族の女剣士でした。『ヘラ・ファミリア』所属、レベル3……アルガードとウィリスとはよく三人で仲睦まじく過ごしているのを見ました。もしかしたら恋心もあったのかもしれませんが………なれば尚の事、彼女の死は二人の心を深く穿ったことでしょう」
「そんな………お、おかしいですよ。二人は『改造』の腕は確かで、しかもピオさんとお友達だったんでしょ!?いくら品質が落ちるって言っても、そんな常連さんならお二人が手を抜くようなことを許す訳が!」
「その指名が増えすぎたことが元々二人の仕事が集中しすぎた理由……だから、業務内容が変更された際に指名のシステムは禁止になりました。ピオはそれでも二人の所属しているのだからと信じて『改造』を任せ――遠征中に突然剣が限界を迎え、その隙に魔物の凶牙に斃れたのです」

 当時の作業記録は残っていない。指名制の禁止によって誰が誰の剣を担当して『改造』したのか、誰も把握していない。確かなのは、親友二人以外の誰かがその剣を担当し、粗悪な改造を施してしまったことだけ。

 ピオの亡骸はダンジョンの安全地帯に弔われ、剣は彼女の仲間の怒りの視線と共に工房へ帰ってきた。その時の二人はどんな表情をしていたのだろう。憤怒に染まったのか、悲嘆に沈んだのか、現実を受け入れられずに呆然としたのか――ウルは敢えてその話を避けた。二人もそれを追求することはなかった。

「アルガードを除く9人は、間もなくしてファミリアを抜けました。工房内での激しい犯人探しと、これ以上そのメンバーが同じファミリアにいることが精神的に辛くなったことが重なったのでしょう。彼等はホームの職人からもファミリアの名誉に泥を塗ったと罵られ、失意のうちにファミリアを去りました。そのまま職人を辞めた者もいれば、よそのファミリアへ『改宗』した者もいました。共通していたのは………誰もが後悔をしたことだけ」
「自らの手掛けた作品で死人を出したことか、それとも利益を追求するあまりに大切なものを欠落させたことか。後悔のポイントは沢山あったろうね………どうしようもない最悪の結果への分岐は」
「……アルガードさんとウィリスさんは、どうなったのですか。大切な人を喪って……それが仲間の所為だと恨んだんでしょうか。それとも自分たちが業務形態に不満を言ったことをどうしようもなく悔いたのでしょうか」

 トローネは、二人の職人の心を慮る。もし自分が致命的なミスによって同僚を死なせたら……担当冒険者に誤った情報を与えて死地に追いやったら……自分の心は、その責任に耐えきれるだろうか。

「ウィリスとはそれ以来とんと話を聞きません。冒険者を続けているかも定かではありません……アルガードは今も工房を一人で切り盛りしています。今でこそ普通にしていますが、事件後は自らの命を削るように鬼
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