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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
34.彼岸をこえた小さな背中
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を平気で投げうるだろう。

 だから、金でどうにかできないことに対処するためにヨハンたち一般職員が存在する。

「今回の一件でトローネとルスケも使い物になるようになりゃいいが……」

 『地獄の三日間』の前も、こうして街のあちこちで不審死体の発見が報告されていた。少しずつ、少しずつ、見えない悪魔が影を侵食するように広がる『狂気』という名の伝染病。早く刈り取れるのならそれに越したことはない。

 冒険者という名の化け物が跋扈し、夥しい死と血をばらまいた惨劇の日々。
 もうあんな時代が来るのは御免だぞ――と、ヨハンは静かにテーブルに置いた手を強く握り絞めた。



 = =



 それほど大きくはないが、繊細かつ洗練された外観の工房――それが、『ウルカグアリ・ファミリア』のホームだった。見た所では中規模ファミリアと小規模ファミリアの狭間といったところで、職人意識の強いファミリアにはそれなりにある体系だ。

 そこに何の躊躇いもなく突入して受付に「ウルカグアリいるー?」などと言い出すのだから、アズライールという男は心臓に悪い。本人には欠片の敵意もないのだろうが、あの死神オーラが唐突に突入して来れば並大抵の人は焦るものである。
 幸いにして遅ればせながら突入したトローネが事情を説明したものの、それが無ければファミリアの皆さんは「死神が主神を滅ぼしに来た」と盛大に勘違いして命を賭して戦ったことだろう。受付の女の子が悲痛な表情をしながら震える手でペンをナイフのように握っていた光景が印象的だった。

 ……直後に「ペンは剣よりも強しってそういう意味じゃないから」とアズにペンを取り上げられて泣きそうになっていたが。彼女からはなにか自分に近いものを感じるトローネだった。

 やがて、ホームの奥からその少女が現れたことで、騒動は終息に向かった。



 トローネとアズに紅茶をそっと差し出した美麗なドレスの少女は、儚げな笑みで微笑んだ。

「――満足なおもてなしも出来ず、申し訳ありませぬ」
「や、こっちも突然で悪かったね。次は菓子折りでも持って来ることにするよ……あ、いい香り」
「早速紅茶飲み始めてるし……」

 ウルカグアリ――鉱物を司るとされるその神は、華奢でどこか神秘的な印象のある少女だった。長い蒼髪は清流のように揺れ、その身はドレスだけでなく首飾り、指輪、腕輪、ティアラなど数多くの装飾品で彩られている。しかしそれほどに豪奢な品を身に着けているにも拘らず、彼女からは上流階級特有の嫌味が一切感じられない。
 むしろ、そうして多く彩られていなければそのまま光に融けて消えてしまうかのように、彼女の纏う気配は透き通っている。

「そのアクセサリさ、全部貰い物のプレゼントでしょ。それもほとんどがファミリアから
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