33.改造屋
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も新聞も歴史が浅く知名度が低いが故に『下』に見られていることが多く、初契約の集金時は今までも幾度とない苦難が待ち構えていた。料金支払いを拒否したり、貰うだけ貰っておいて一方的に契約を踏み倒したり、難癖をつける、金銭問題を理由に先延ばしにしようとする、新聞を突き返して『これで代金チャラ』などとのたまう……見も蓋もない言い方をすると『ナメられる』訳だ。
彼の懸念はそれだけではない。アルガードという男は新聞契約を交わしているにも拘らず、『今までに新聞を読んだ形跡がない』らしいのだ。契約時には確かに顔や住所を確認したのだが、後の調査でこの家から捨てられた新聞を見ると未開封の証である紙テープが破られてすらいない。変に思って本人確認の為に何度か尋ねたのだが、扉越しに代理人の返事が来るばかりで一向に顔を出さない。
新聞を買っておいて読む気が失せたことはあるだろうが、ああもあからさまだとこの客とのやりとりに嫌な予感を覚えざるを得なかった。具体的に何がという話ではなく、経験則という名の統計が『厄介』という警鐘をかき鳴らしているのだ。その厄介はこれから起きるかもしれないし、来月に起きるかもしれない。ただ、何となくパラベラムはそれが確実に訪れるであろうことを予感していた。
煉瓦屋に道を聞いたのは、別に家が分からなかったからではない。アルガードという男の情報をさり気なく聞き出そうとする狙いがあった。
「あの人の話じゃ最近見ていないらしいが……やけに出不精だな。生活してんなら最低限外出ぐらいするだろう。ならあそこに住んでないのかとも思ったが、お手伝いさんはいるようだし。話を聞く限りでは金回りにそこまで困ってる訳ではなさそうだな」
最初に契約に行った組合員の話では、半ば自営業の状態にしてはそこそこ儲けている風だったという。契約を続けるにしても辞めるにしても、取り敢えず今月分の代金は回収しなければ組合長に顔向けが出来ない。
鬼が出るか蛇が出るか……避けたい仕事だが、避けて通れない仕事でもある。
ため息交じりに真上を見上げると、屋根と屋根の間を数人の人影が次々に飛び移っているのが見えた。最近冒険者の間で密かな流行の兆しを見せる『移動遊戯』だ。近々それを題材にした特集をしようと計画している。
だが、パラベラムの目線は未来の記事には向けられておらず、参加者に女性がいるかどうかにばかりに向いていた。
「……ちぇっ。女の子はいるけど流石にスカートは履いちゃいないか」
どうせ相手をするなら40代のちびガキではなく美人奥様がいい。
そんな本音を漏らしかけたパラベラムは、実現しない妄言をのたまう自分が虚しくなって大きなため息を吐いた。
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