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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十話 宴の始末は模糊として
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ない。故に『聯隊戦闘団』とでも称すべき独立混成第十四聯隊を任ずるのだろう。
「はい、閣下」
 ――そして軍機に関わる自身の代言人として使うことで駒城家は馬堂を信用しているとパフォーマンスができる、と。若殿さまは善人だけど抜けているわけではないのよね。

「頼む、六芒郭の応急処置に投入されている工兵隊もいるのでね。蔵原で合流するまではしばし兵を休ませてやれ。補充に必要な手当てはする」

「はい、閣下――あぁそれと佐脇少佐の事ですが」

「――武勲はあるが総指揮を執ったのは君だ。感状は授与したし受勲の申請もするが昇進まではいかん。そういうことだ」
 そこまでいけば四半世紀前であれば昇進しただろう、今でも軍組織が拡大する戦時ゆえ当てがないわけではない。
 だが駒城はそれをしない、そういうことだ。
「代わりと知っては何だが九月付で君を大佐にするように手配した、もともと仮任命の聯隊長だったからな、戦功抜群であるからには当然の措置だ。他の将家も文句はつけられん、第三軍にいた西州の者達は推薦すらしてくれていた。恩義を感じているのだろう」

「階級章を二つも、ほんの数か月で外すことになるとは思いもしませんでいた」

「当たり前だろう、そもそもからして、あれほどの大型聯隊を中佐に任せられんさ、龍口湾でよほどのことが無ければ大佐にするのは既定の方針だ」

「‥‥‥」
 首元の階級章をなぞる。中佐になるのは三十を過ぎてからだと思っていた。それが今では 大佐の階級章が目の前にぶら下がっている、この戦が始まる前は父の階級だったものが。それがこれほどまでの速さで自分の物に、これが戦時の軍人というものか。

「それが“馬堂”の名の重さでもある、君の武勲がそれを更に重くしている。
将家とは御国の一朝有事さにこそ陛下の藩屏として率先し範として血を垂すべき存在だ
駒城も馬堂も”将家”だ、故にこそ重くなる」

「‥‥‥はい、閣下」
 奇妙なほど澄み切った何かが保胤と豊久の表情を流した。

「戦も節目を迎えた、皇都でもあれこれと動きがあるようだ、“馬堂”もずいぶんと遊んでいる」

「‥‥‥」
 豊久は再び笑みを浮かべた。

「勘違いするな、責めているわけではない。だがこの件で情勢が動くことは避けられん」
 保胤は面会の終わりを告げるように細巻入れを取り出し、豊久に押し付けた。 
「それを忘れないでおくように」

 

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