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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十話 宴の始末は模糊として
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ければなりませぬが、秋から増産を行う予定ですので、補填は可能です。
ですが、動員の面から言わせてもらうのならばここで一万もの兵を見捨てるとなるなら兵部省としては反対せねばならない」

 唸る窪岡を視線で制し、豊守は言葉を継ぐ。
「陸軍の拡充計画については衆民院、大蔵省とも追加予算の承認について協議中であります。全力を挙げて取り込んでおりますが、万もの常備兵力を失うことは看過できない影響が出るのは当たり前でしょう――であるからには相応の方策が必要であると兵部省としては考えております」

 『馬堂家』としての豊守の立場は窪岡とはまた異なる。馬堂家は駒城家の重鎮ではあっても他将家との対立を可能な限り避けようとしている。馬堂家の立ち位置は極めて政治的に微妙なものとなってしまっている。
 新城直衛の台頭により駒城家の重臣団の中でも保守的な者達は反発を強めている。分かりやすいのは佐脇利兼であるが、他の者たちも似たり寄ったりである。新城直衛は既に少佐、そして事実上は聯隊規模の剣虎兵大隊を指揮している。
 おおよそ十年かけて大尉になるのが当然であった者達にとってしてみれば衆民出の男が自分達の頭を飛び越えた栄達を歩み、大隊編成時には親王の権威を笠にきて人務であれこれと横車を押し、面倒を被った者たちも少なくない。

 要するにそういった者達にとって馬堂家は有望な対立用の神輿なのだ。故州伯爵・弓月家と婚姻関係を結びさらに豊久の武勲をもって立場を強化されている馬堂家は駒城家にとっていつ厄介な出る杭と見なされてもおかしくないのだ。結局のところ他将家にも適度に愛想を見せながら駒城の方針に乗っかるしかない。

 ――落としどころはここだろう。護州の策に嵌るのは面倒に過ぎる、現実的な面から護州の案を修正してしまえばいい。えぇい畜生め、親王殿下を外したのはこの為か。

 豊守としてもここで近衛総軍の代表者が反対意見を出してくれれば主家の御育預を死地に追いやる手助けをせずに済んだかもしれない。だが現実は〈帝国〉軍を相手にそれぞれの立場で足掻く将家たちのつばぜり合いしか存在しなかった。

 実仁親王は近衛衆兵隊司令官から近衛総監兼近衛総軍司令長官の代理へと昇進している。神沢中将は近衛総軍司令長官として皇龍道に長期滞在しているためだ。近衛総監部は近衛の軍政機構として権限が集中している。
皇龍堂に入り、情勢が落ち着き次第神沢中将は近衛総軍司令長官代理となるだろう――軍の運用に関する実権は軍監本部と彼が握ったままだろうが。
近衛衆兵は初の本土侵攻を受けて以来、徐々に規模が志願兵の増加により規模が拡大している。実戦に投入されるのはそれこそ年が明けてからとなるだろうが――近衛総軍内で軍事的価値が完全に逆転しつつある以上、衆兵隊司令官が近衛総監と(飾り物ではあるが)近衛総
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