29.其の名は「告死」
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…あなたは顔も見たことがない彼に『その可能性がある』と思ったのね。………一応、伝えてみるわ」
「そうか。ではな……また来る」
それだけを言い残し、ブラスは部屋を後にした。
オーネストはこの世界の魔剣を触って直感したことがある。
あれは出来損ないだ。実際にはあの形式より『上位』に昇華させなければならぬものを、過去から存在する魔剣の概念に縛られて進化を留めている。魔剣が高級な玩具でしかないという事実に、作り手は恐らく気付いてはおるまい。
その枠を越えた時――魔剣は初めて真の意味での剣となる。
思った以上に魔剣に思考を取られていることを自覚し、ふっ、と自嘲的な笑みが零れた。
(俺としたことが、あれではまるで助言じゃあないか。昔からの悪い癖だな……)
それは周囲から見れば「優しい」と称されるオーネストの一面だった。
自分に呆れながら廊下を歩いていると、見張りで待機していた椿がブラスの隣に並ぶ。
「昨日ぶりだってのにやけに久しぶりに感じるな……」
「手前もどうしてか同じ気分にさせられる」
「お勤めご苦労さん。大変だったろう」
「……1日ならまだマシな方だ。1週間見張りをやらされた時は仕事も手につかぬし無駄に神経が磨り減るし、時間間隔が狂い果てしなく続く錯覚を覚えるほどの地獄だった。顔色の悪さを隠すために厚化粧する羽目になったのはあれが初めてだ………胃薬、感謝する」
心なしか椿の顔は疲労のせいで数歳老け込んだように見え、さしものブラスも気の毒になってくる。
もし椿がいろいろと耐えられなくなったら……現在の状態を継続できない。彼女の負担を減らす策が必要だ。
「どうやらあの神は上司として致命的に欠けている部分があるらしいな……。次に来たらどうにかしてファミリア内部に協力者を増やす算段を持ちかけてみる」
「すまぬ……すまぬ……!!」
「だから泣くな鬱陶しい。向かい側から誰か近付いてるぞ」
幸いにして、向かいから現れた青年はブラスの物珍しさに目が逸れて椿を不審には思わなかったらしい。赤毛の短髪が似合うその男はブラスに見惚れたようにぼうっと目で追っていたが、二人が通り過ぎるとハッとして気の緩みを振り払った。
「いっけねぇ、俺としたことが……これからヘファイストス様に渡した魔剣の話を聞きに行くってのに、だらしない顔はしてらんないぜ」
不本意ながら一本だけ作らされた短魔剣。
その魔剣の呆気ない末路と剣を振るったテスターの衝撃的な発言は、この後の青年――ヴェルフ・クロッゾの魂にかけられた『魔剣の呪い』を大きく変容させることになるのだが……それも今はまだ未来の話である。
= =
唐突な話だが、アズライールという男は嫌われるより怖が
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