27.君散り給うことなかれ
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天国とはどんな場所なのだろうか。
きっとそこに死はないのだろう。病の苦しみも、差別も、区別もないのだろう。飢えもなく、不便もなく、人を縛る有限の法則すら曖昧になるのだろう。まさに一切の苦難から解放された楽だけの世界だ。全てに満足し、何一つ焦燥に駆られることもない。この世界に存在しない筈の永遠を、きっとそこでは誰でも平等に抱いている。
だが――それは本当に天国なのだろうか。
飢えが無いのなら、食べる喜びもなくなる。不便が無いと、向上心は失われる。不可能が世界から消滅すると、人は何をする必要もなくなり、何もしなくなる。なれば、天国に辿り着いた人間は一切の人間性を失ってただ悠久の刻を無為に重ねていくのではないか。己が地獄を避けた理由も、存在する意味や恐怖の理由さえも崩れ落ちてゆくのではないか。
神曰く、確かに天国らしい場所や地獄らしい場所はあるそうだ。
しかし、誰もがいつかはそこから離れ、輪廻へと還っていくという。
何故ならば、天国とは魂の休息所でしかないから。
天国にも地獄にも、あるのは永遠の停滞だけ。
魂はいつか、自らがただ世界から取り残されているだけだと理解する。
まさに天界に飽いた神々の姿こそが答えだった。
人は、結局どう足掻いても前へ進まなければならないのだ。
だから――
だから、いいかげんに甥離れしろこのぼけ神は。
「……ヘファイストス。もうアンタが俺を膝の上に座らせようとするのもアーンを要求したり強要してくるのも膝の上で耳掃除させられるのも、やめさせるのは諦めた。――だが、いい加減に風呂に一緒に入るのは止めてくれないか」
「嫌よ。貴方来るたびに血腥い臭いがするんだもの。自分で自分を洗えてない証拠だわ。いいからほら、こっち向きなさいオーネスト。次は手を洗ってあげるから」
「……………頼むから、自分で洗わせてくれ」
「ダ・メ♪」
ここは地獄だ。誰が何と言おうと絶対に地獄だ。
何が楽しくてそろそろいい大人になろうかという俺が人に体を洗って貰わねばならない。しかも、背中だけに留まらず全身を。尻と股間だけは何とか自力で洗えているが、それも黙っていれば勝手にやられそうで恐ろしい。
目の前には一糸まとわぬ裸体をさらけ出したヘファイストスがボディスポンジ片手に座っている。風呂の湿気と熱気で火照った肌は、彫刻のように完成された女性の裸体をより妖艶に、扇情的に染め上げていた。普段付けている眼帯は取り払われてその『中』が露わになってはいるが、彼女ほど大人びた人物だとそれさえ美しさの一部となる。
普通なら男に裸体を見られて恥じらいの一つでも見せる所であろうに、この女神はまるで5,6歳の子供を風呂に入れるよう
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