27.君散り給うことなかれ
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な笑顔で俺の手を取った。確かに数億年の永き刻を生きた彼女からしたら俺など精々が受精卵程度の年齢かもしれないが、平気にしている理由は多分それではない。
「そう嫌がることでもないでしょ?昔はヘスティアとだってお風呂に入っては二人ではしゃいでのぼせてたじゃない」
絶対に、絶対に、特にヴェルトール辺りには聞かれたくない過去を掘り返され、俺は辟易した。
恥ずかしい過去だとは思わないが、随分昔の、まだ裏切られる前の話だ。あの頃まで、本当に俺はただの子供だった。いや、女神と風呂に入る経験は普通それほど出来るものでもないらしいが、その頃はそれをおかしい事だとは思わなかった。
――そんな話をしたところで、あの頃は還ってこない。だから、無駄な話だ。
「女神と風呂に入ったそれは『オーネストじゃない』。生憎と、風呂を楽しむ文化は名前といっしょくたにして8年前に捨ててきた。返り血が鬱陶しい時は水浴びくらいするが、長風呂はしない。時間を無駄にする」
「無駄にした結果臭くなったら意味ないでしょ。それに、貴方にも休息が必要よ。どうせ今は何に追われている訳でもないのだし、時間の無駄遣いをしなさいな」
鍛冶屋とは思えないほどに美しい彼女の手が俺の腕を掴み、その肌に泡立ったスポンジを丁寧に滑らせていく。強すぎず弱すぎずの力加減でスポンジが肌の上を滑っていく感触は、認めたくはないが心地よい。
「……爪の間に血糊がこびり付いてるわね。魔物の返り血?」
「ガントレットの中に入りこんだのが指先に溜まるんだ」
「爪の手入れはしてるんだから一緒に血も落としておけばいいのに……変なところでものぐさね」
長い爪は戦いの邪魔になる。だから冒険者は誰しも爪の手入れを欠かさない。俺もまたそうではあるが、こまごまと爪の間の塵まで取り除くことは、少なくともダンジョンの中ではやらない。少し間が空いた時くらいにはやることもあるが、優先順位が低い。
「……指先に血が溜まらないように新しいガントレットを――」
「それはアンタの仕事じゃない。防具はフーの担当だ。そこを違える気はない」
「……………むぅ。オーネストの友達の仕事かぁ……シユウ・ファミリアの子よね?あの神とも知らない仲じゃないもの、仕事を取る訳にはいかないわね……」
残念そうだが、同時に嬉しそうでもあるヘファイストスは、人の手の爪から汚れを丁寧に削いでいく。自分の出来ることをやらせてもらえないのは不満だが、こうして俺の世話を焼いている人間が一人ではないことは嬉しいらしい。
気が付けば、結局人間は独りでは生きていけない。オーネストとして生きるにしても、協力者がいなければ続かないことが多い。そんな当たり前の事を思い出さされることを言った時、この神はいつも嬉しそうだ。
「どうしてそんな
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