25.荒くれ者の憂鬱
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ファイストスの元に訪れているのが「あの」オーネストであることに気付き始めた。そうすると当然ながら、よくない噂が瞬く間にファミリアに伝達していく。
曰く、ヘファイストスはあの男に手籠めにされている。
曰く、ヘファイストスは犯罪の片棒を担いでいる。
曰く、ヘファイストスは実は年下趣味である。
どれをとっても事実無根―― 一番下は絶対とは言い切れないが――な上に、どれもヘファイストス・ファミリアのイメージをマイナスに下げる物ばかり。これ以上オーネストが足繁くヘファイストスの元を訪ね続ければ、ファミリア内の不和、ブランドイメージの低下、更には彼の抱える余計なトラブルに関して言及される事態になりかねない。
オーネストは自己犠牲を伴った献身が嫌いだ。だから、今まで様々な鍛冶屋と縁を切ってきた時と同じように、噂が立ったのを知った時点でヘファイストスの元に通うのを止めた。通った期間は1年以上――人生の中では最も長く続いた専属契約だった。
ところがどっこい、通わなくなって数日後にヘスティアが館に転がり込んできた。
曰く、「キミが工房に来ないってヘファイストスに毎晩ヤケ飲みに誘われて、ボクの肝臓はそろそろ限界だよ!!」だそうだった。とりあえず、二日酔いに効く薬を調合してあげた。
翌日、今度はヘファイストス・ファミリアの椿・コルブランドという女が転がり込んできた。
曰く、「主神様が『あの子が来ない〜あの子が来ない〜』とめそめそ嘆いて仕事をしてくれませぬ。手前の胃はもう限界であります!!」だそうだった。とりあえず、胃に効く漢方薬を調合してあげた。
オーネストは迷惑をかけるのが嫌で身を引いたのに、何故かもっと迷惑が掛かっている。どこぞの少女向け恋愛小説でもあるまいし、ヘファイストスがそこまでオーネストを重要視しているなど予想だにしていなかった。これは今も昔もそうなのだが、どうにもオーネストは自分を重視しすぎるが故に他人の自分に対する評価をあまり考えていない節がある。今回のこれは、その性質が招いた失敗と言えるだろう。
結果、妥協に妥協を重ねたオーネストはやむなく新たな方法でヘファイストスの元に通うことにした。
この時間帯には完全に人通りが無くなる路地裏に入ったオーネストは、気配を探って周囲に誰もいないことを確認すると壁にもたれかかる。そして、静かに詠唱を開始した。
『己が自由の為ならば、我が身を虚偽にて染め上げよう。汝は炎を掴めるか。風を抱擁できるのか。出来ると真に思うなら――袖を掴んで真の名前を告げてみよ――』
この時を除いて一切合財使用する気が皆無な魔法『万象変異』を使用し、オーネストの身体を魔力の光が包む。
「――最近、これに慣れてきた自分がいるのが気に入らん……」
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