25.荒くれ者の憂鬱
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い裏切り、浮浪者狩り、強盗、陰謀、妄執、傲慢、死別、身体に刻まれた傷……それでも戦うために砥ぎ続けた牙。あの頃はまだ弱くて、誰彼かまわず噛みつき、ありもしない優しさに縋ろうとし、何度も嗚咽と共に落涙した惨めったらしい時代。
しかし、オーネストという戦士を鍛え上げて今という瞬間を構成しているのはそれだ。痛みや苦しみを呑み込んで罪を背負い、誰かを傷付けて生き延びてきた哀れな男にとっては、それが世界だった。そこで敵を作り、敵を作られ、敵になり、飢えた狼のように暴力に狂い続けた。
何もかもが足りなかった。
何もかもに飢えていた。
――何も考えなくてよかった。
だが、結局人間というのは過去に縛られた行動しか出来ない存在だ。
自由を求めれば自由に縛られ、変化を求めれば変化に縛られる。
オーネストと名を変えても、結局は『かつて』に縛られた。ヘスティアとヘファイストスの献身、時折姿を見せるかつての親友、目には見えない誰かの罪滅ぼし……折り重なる誰かとの繋がりはいつしか甘さとなり、甘さは過去と現在を矛盾させ、矛盾は妥協を呼ぶ。
アズライールと名付けられた男が来て――それからメリージアが館に住みついて――その頃から、オーネスト・ライアーはすっかり安定してしまった。望む望まざるに関わらず、どこか緩い存在になってしまった。
それをどこかもどかしく感じるのは、きっとオーネストという最大の嘘で塗り固めた壁の向こう側からの――
(……いや、止そう。俺はオーネスト・ライアーだ。真実を偽ろうとも、事実を偽った試しなどありはしない。目の前に事実があるならば、未来のことなど知ったことではない)
それより問題なのはヘファイストスだ。ここ数年で猛烈に加速した甥馬鹿神のエネルギーを、最近はもういなしきれなくなっている。ある意味あれも凄まじく飢えた存在だった。……オーネストのそれとは完全に別次元の方向へ突き抜けているのだが。
自分の悩みと比べて比較対象があまりに馬鹿らしい。オーネストは目尻を押さえて大きなため息をついた。
= =
オーネストがヘファイストスの元に行きたくない理由は、主に彼女に会いたくないというどこかゲンナリした思いによるものである。しかし、実を言うとそれだけが理由という訳でもない。
嘗てオーネストが無名だったころは、度々ヘファイストスの元を訪れる若い冒険者を、周囲は奇異の目で見こそすれヘファイストスが喜んで迎え入れていたため「弟子にでもするのか?」くらいに思っていた。元々、彼の神は身元に問題があっても気に入ったら簡単に受け入れる寛容さがある為、その頃は不審に思われなかった。
しかし、オッタルとの喧嘩以来オーネストの悪名は街に爆発的に拡散され、周囲もヘ
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