暁 〜小説投稿サイト〜
俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
24.在りし日の残影
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たことか、偶然にもダンジョンから戻ってきていたオーネストがそこに居たのだ。今日は珍しく他のメンバーはおらず、館はメリージア・オーネスト・ココの3人しかいなかった。アズまでもがいないというのは非常に珍しい事態だった。

「今日ね、死んじゃった冒険者のお父さんをお墓に案内したの。それで……墓石を抱いて大泣きする姿を見て、なんかモヤモヤしちゃって」
「そのモヤモヤの理由が分からないから、死者の在りかを考えたのか」
「ん、多分そうだと思う」

 オーネストは天井の方に目線を向け、静かに語った。

「……死後、魂は肉体と別れて天界へゆき、冥界にて神々の選定を受け、やがて全ての記憶を流し落として輪廻の環へと戻ってゆく。そうして長い刻を経てまっさらな魂は地上に新たな命として再誕する。それが、この世界の(ことわり)だ」
「肉体は死んでも、魂は死なないんだね」
「――記憶を喪うことを『死』と呼ばないのであれば、な」
「あ……そっか。記憶がなくなっちゃったら、もう誰が誰だか分からないもんね」

 黒板に書きこんだ文字が記憶なら、冥界とはその文字を黒板消しで払い落とす場所。そうして真っ新になった黒板に、新たな体の主が文字を書きこんでゆく。文字をもう一度見たいと思っても、消えたものを再生することは出来ない。出来るのは精々メモを取って内容を『真似る』ことだけだ。

「死んだ人間が……その老人が求めた息子とやらが還ってくることはない。生まれ変わりが現れたとしても、どれほど魂が似ていても――もうそいつはいない。いないと分かっていても振りきれないから、人は死者を偲んで墓標を立てる。それは、人がこの世に残す最後の形ある名残だ」
「………なんか、何で悩んでたのか分かって来たかも」

 きっとそれは、自分だけが感じたいのちの授業。
 自分で探して自分で見つけた、自分だけの生死観。

「私が死んだときも、家族をあんなふうに泣かせちゃうんだろうなって……でも、そうやって皆が自分のお墓の前で悲しんでいることさえ、死んだ私は気付けない。それってなんだか悲しくて、苦しくて、何か言いたいのに言葉は届かなくて………『死ぬのが怖い』っていう気持ちを初めて考えたんだ」
「そうか」

 そっけない返事を返し、オーネストは座っていた椅子から立ち上がった。
 これはココの答えだ。オーネストには何一つ関係ない。そしてオーネストは既に質問に答えるという義務を果たしたから、これ以上は会話をする必要がない。だから、話はそれで終わりだった。ココは彼がそうやって人の気持ちを汲むことをしないとよく知っているから、冷たい人だとは感じなかった。

 それでも――時々、ぬくもりを確かめたくなるから。

「オーネスト。私が死んだらお墓参りしてくれる?」

 オーネストは一瞬立ち
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