24.在りし日の残影
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る。
どのファミリアの墓が目的の墓なのか、墓そのものは大きくとも数は多くない。一つ一つ確かめれば、見つけるのにそれほど時間はかからない。墓石にはあちこちに生花が供えられており、どれも明らかに昨日今日に置かれた物ばかりだ。
(これ、きっと事件の犠牲者に捧げる花だ……)
『恐怖の三日間』を詳しく知る人間は殆どいない。それほどに急激で謎が多い事件なのだ。事態を把握しているのは三日間の数少ない生き残りと事態終息に乗り出したギルド、そのギルドの護衛を買って出た少数のファミリアだけだろう。
街ではそんなそぶりは見えなかった。いつも通りの街に見えた。
その中で、「努めてそう振る舞う人々」の存在――シシドと同じ気分を味わった人々の存在を、ココは否応なしに考えざるを得なかった。
(おじいちゃん……今まで何年も息子さんの死を確かめられないままだったんだよね。ううん、きっと今も心の底では認めたくないと思ってる……)
シシドは決して足を止めていないが、きっと本音を言えばもう引き返したい気分の筈だ。今日はもう遅いから明日にしようとか、言い訳をして逃げたい筈だ。それでも――この老人は受け入れがたい事実から逃げることを止め、こんな場所までやってきている。
どれだけの覚悟を決めて、どれほど勇気を振り絞ったのか。だが、その決意が齎すものは決して救いなどではない。辿り着くのは、より辛く、より悲しく、逃げ場のない『事実』。それを突きつけられたとき、果たしてこのシシドという老人の心は耐えられるのだろうか。
(でも……もうここまで来てしまった。引き返す訳には……いかないよね)
この世にあるのはどうしようもない事実だけだ――いつだったか、オーネストはそう言った。どんな言い訳をして何度遠ざけても、もうシシドは逃げられない場所まで来ているのだ。
やがて、二人は見つけてしまった。
「……ここ、だね」
「………う、む」
テティス・ファミリアの墓は、その手前に石碑のような形式で名前が刻まれていた。
既に誰かが訪れたのだろう。赤、白、黄色を束ねた花束が添えられていた。
「薄々、そうではないかとは思っていたさ。あやつは変な所で律儀じゃから……急に手紙を送って来なくなった時点で何かあったのだと思っておった。そしてそれが5年、10年と続き……如何に老いたわしの頭でも最悪の想像というものが過る」
震える指で石碑の名を確かめていたシシドの指が、ぴたりと止まった。
『ファミリア団長【鎌鼬】アキラ・スクワイヤ…Lv.6 享年44歳』
「……事実を確かめるのが怖くて、こんなに皺くちゃになるまで踏み出せなんだ」
か細く、消え入りそうな声で、シシドはぽつりと呟く。
「本当に死んだとは限らない
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