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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
23.舞空遊跳
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、突然……まさか試合放棄か!?」
「いや、ちげぇ!あれは何か……やろうとしてる!!」

 異変を察知したメンバ―の足が止まった。
 勝利したい思いはあるが、それ以上に――あのパルクールの女王が何をしようとしているのかをその目で見極めたい気持ちが激しく胸を躍った。あの時、初めて彼女の背中を追いかけた時に見えた新しい世界を、また彼女の背中が見せてくれる。そんな根拠のない高揚感が、全員の視線を彼女へと集めさせる。

 すぅ、と、『黒豹』の身体が重力に従って屋根の外へと傾く。
 彼女がそのまま重力に従い続ければ――彼女は頭から建物の下へと落下して無残な死を遂げる。それほどに無抵抗で、(なぎ)のように穏やかに空間を彼女の黒髪がふわりと広がった。

 その直後。

「――ッ!!!」

 ダンッ!と腹の底を叩くような重音を立ててつま先が『黒豹』の身体を宙に投げ飛ばした。
 いや、投げ飛ばしたのではない。跳躍だ。それも、バック宙返り。

「綺麗………!」

 思わずそんな感想が漏れるほどに、『黒豹』は美しい放物線を描きながら鮮やかに回転する。
 高さ10M近く、飛距離にして30Mはあろうかという人生史上最大の跳躍。しかも、彼女はそれを後ろを向いて回転しながらこなしている。
 やがて、放物線の最高高度を通り過ぎた頃に顔の所の回転は徐々に緩やかに、そしてしなやかに体を開き、遙か遠くにあった建物の屋根の先端を正確にストンプして更に跳ねる。

「ウソだろ……あの回転のなかでどうやって着地タイミングが分かるんだよ!」
「しかも足場が下手したら滑りそうなくらい狭い……一体どこに目が付いてるってのよ……!?」
「今度は宙返りではなく空中回転捻りだぞ!!」

 縦の回転から横の回転へ、加速の反動を十全に活かした上で身を捻り、バランスを一切崩さない体勢移行。そして下手をしたら目を回してそのまま落ちそうなほどの回転の後、『黒豹』は側転二回、宙返り連続4回、更に空中2回転半身捻りを加えて完全に体勢を立て直し、そのまま更に目的地へと高く跳躍した。

 そこに到るまでの流れるような速さ、高さ、体裁き、そして神懸かり的なバランス感覚。
 そして何より、失敗すれば大怪我間違いなしの常識離れの大技を、この土壇場で平然と行って成功させる『イケてる』心意気。

「凄い………やっぱり『黒豹』は凄いや!!」
「おい、急いで追いかけるぞ!!このままじゃゴールの瞬間さえ見逃しちまう!!」
「『黒豹』様ぁ〜〜!!一生ついてゆきますぅ〜〜〜!!!」

 若い冒険者の間で密かなブームの兆しを見せる『移動遊戯(パルクール)』の最先端を駆け抜ける正体不明のカリスマウーマン。その正体が明かされるのは、本人が思っているより遙かに先になりそうだ。




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