19.向カウハ修羅ノ道
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こうはならなかった筈。
そんな言葉が脳裏を過るのは、思い描く理想があるからだ。そして、理想はあくまで理想でしかなく、そこに到る道は綱渡りのように細くて長い。簡単に渡りきってしまえる者もいれば、何かの拍子に道を外れる者もいる。
オーネストは後者だった。言葉にすれば、ただそれだけの事でしかない。
「うちに来てもね……あれからどんな風に生きて来たのかは話してくれなかった。その日だけ、オーネストはうちの家に泊まっていったよ。そして次の日の朝――あの子の姿はなかった。ちょっとした置き手紙だけ残して、結局またダンジョンに………一応、それ以来時々は顔を見せるようになってくれたけど、それだけだった」
「それだけ、って………?」
「自分の事は言わない。弱音は吐かない。甘えない。慣れあわない。本当に顔を見せるだけでにこりとも笑わない。………あの子は誰の庇護にも入らずに独りぼっちでダンジョンに向かっていた。なのに、何一つ……全く頼られなかったんだ」
ベルは、想像する。
仮定の話――ファミリア入りを諦めたベル・クラネル少年は拙い装備でダンジョン攻略に挑む。お金も食べ物も充てはないし、友達も仲間もいない。泥棒に疑われたり浮浪者扱いを受けることもあり、浴びせられるのは賞賛ではなく嘲りと罵り。心配してくれるエイナも無視して苦労して倒した魔物のドロップアイテムを持っていると、盗品と訝しがられる。その果てにボロボロになった先にヘスティアを発見したベルは……その神様を無視してまたダンジョンへ向かう。
この広い街の中で数少ない『味方』を――縋りついて泣き、己の内をさらけ出したい『味方』を拒絶する。そんな判断を、ベルは出来るだろうか。
答えは決まっている。そんなことは考えもしないだろう。だって、自分から態々苦しい道など選ぼうとする人はいないからだ。
「オーネストさんは寂しくなかったのかな……辛くなかったのかな……」
「寂しかったのかもしれなし、辛かったのかもしれない。ただ、?にも出さなかっただけでね」
ベルの呟きに、アズは苦笑いしながら答える。
「どうして……苦しさを溜めこんだまま過ごしても辛いだけじゃないですか。どうして隠す必要があったんです?」
「『弱音を口に出す軟弱な自分が許せない。そんな自分は心の中で押し殺してしまえ』……ってな感じだろう。辛さ耐えきれずにぬくもりを求めるのは当然のことだけど、同時にその欲動は甘えでもある。あいつは、甘えて他者に付け入られる隙を作るくらいなら自分の甘さを噛み殺そうとする奴さ」
「でもそれじゃあ、ただ辛いだけじゃないですか!」
「後で失うくらいなら苦しみを募らせたままの方がいいって思ってたのかもな。あいつ、絶望的なまでに人生不器用だから」
少なくとも、今のベ
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