18.なきむしオーネスト
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らは木箱にぶつかった時の裂傷がどろりとした血を流し続けていた。しかしその血さえも恐ろしいと思えるほどに、少年の気迫は路地の空間全てを埋め尽くしていた。
結局、その場で唯一冷静だった相手側の団員が「黒曜の剣は別の場所で見つかった。うちの団長が勘違いして悪かった」と地面に頭を擦りつけて謝罪。少年はその頭を無言で一度蹴りつけて謝った男の鼻を粉砕した。
くぐもった悲鳴をあげるその男をしばし見下した後、少年は「二度と俺に近寄るな」と一言呟いて大男を集団の方へ蹴り飛ばした。衝撃で大男の口から歯と鮮血がぶちまけられた。集団は少年に怯えながらも最低限の応急処置のを大男に済ませ、逃げるようにその場を立ち去った。
「くそ、くそ……イ、イカレてやがる。正気じゃねぇ……!」
「これ以上喋るのはよそう。俺達も殺されかねん……」
「う゛ぁ……あ゛………」
ポーションと包帯塗れになりながらふらふらと歩く男が最後に少年に注いだ目は、屈辱でも怒りでもなく、純粋な恐怖だった。
しかし、ヘスティアは少年を恐ろしいとは感じなかった。
(今、戦う瞬間に放った気配――あれは、『――――』の眷属のもの……!例え何億年の刻が流れようが、ボクが『――――』の気配を読み間違えるなんてありえない。でも――ああ、そういうことなのか……!)
少年が誰なのか、気付いてしまったから。
その少年と自分が、かつてよく遊んでいたという事実に気付いてしまったから。
生きていて嬉しい筈なのに。再会できて嬉しい筈なのに――ヘスティアが最初に感じたのは、悲哀だった。
(今の今まで気付かないほどに……君はどうして、何でだ………まるで、あの頃とは別人じゃあないか……ッ!!)
きっと彼女が神でなければ永遠に気付くことが出来なかったのではないかと思うほどに、かつての快活な少年は変貌してしまっていた。
暴力も血も好きではなく、人を脅したり怪我させたりはしない、誰から見ても可愛らしいと思えるような子供だった彼は――あの時に間に合わなかったばかりに、どこまでも歪な存在になってしまっていた。
何が彼をあそこまでの暴力と殺意に駆り立てているのか、ヘスティアには分からない。黒曜の剣を手に入れるまでにどれだけの死線を潜り抜けたのか見当もつかない。どれほど周囲を拒絶し、恨んでいたのか理解したくもない。
(違うだろ……君は、そんなにも濁った憤怒を宿すような少年じゃなかったじゃないか。母親の愛を受けて育った、これ以上善良な子はいないと思えるほどに可愛くて、戦いの才はあっても向いてはいないような、優しい………)
過ぎ去りし過去にどれほど手を伸ばしても、秒針は嘗てに戻ることはない。
あの頃、ヘスティアと共に笑っていた少年は、もう二度と戻ってくることはない。
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