16.Remember Days
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他の誰でもない彼女自身だ。
久しぶりに再会したとき、リージュは自分の立場さえ忘れるほどに動揺していたのではない。オーネストを通して、決して消える事のない傷跡に苦しみを覚えたのだ。自らが犯した一世一代の過ちに苦しみ、「わたしは赦されない」とでも思ったのだろう。
「アキくん」
「……もう目を覚ましたのか」
「うん……」
「もう少しで18階層に着く。そこで寝て体力を戻せ」
「うん……」
弱弱しい声だ。昔はもっとやんちゃな子供だった。
尤もそれを指摘するならばオーネストなど見る影もないほど歪んでいるが。
「背中、大きくなったね。昔はわたしとそんなに変わらなかったのに」
「あれから8年経った。それくらいは変わるものだ」
「匂いも変わった。昔より鉄臭い」
「………それは俺じゃなくて返り血の匂いだ、馬鹿」
声は小さくて、当たり触りのない世間話のようだった。何となく、彼女は自分の一番聞きたいことを遠回しにしようとしている気がした。
「聞きにくいことや言いにくいことがあると急に世間話が増える癖、直ってないらしいな」
「………だって、聞けないよ。答えを聞くの、怖いから」
「ならお前の聞きたいことに答えてやろうか?お前が自分で言葉にするまで待つのも億劫だしな」
小さく息をのむ音と、体が強張る感触が背中越しに伝わる。
ファミリアの団長をしていると聞いたから少しは成長しているかと思ったら、そうでもなかったらしい。きっと彼女の刻は、自らの罪を自覚したあの日に止まってしまったのだろう。――自分と同じように。
「俺はお前を赦した訳じゃない。水に流そうなんて言うつもりもない」
「――そう、だよね………当たり前だよ、うん」
震える喉から、リージュは辛うじてそう答えた。
上ずっていて、今にも泣きそうで、なのにその結末をどこか理解していたような自嘲的な声。
彼女が自ら背負った罪の十字架は、いつまでも錆び付かずに鈍い光沢を放ち続ける。
「でも、な」
重い荷物を抱え込んだ相手に、オーネストは時たま何の参考にもならない助言を与える。
「俺が赦そうが赦すまいが、お前がビクビクと子兎みたいに震える理由にはならねぇ。罪は自覚して初めて罪になる………そして、自分が罪人だと分かっていても自分が自分でいたいから、人は罪を抱えたまま生きていく」
罰金を払う。牢獄に叩きこまれる。指名手配を受ける。周囲に蔑まれ、罵倒される……それら罪人に与えられる報復は、あくまで周囲から勝手にぶつけられた一方的な罰でしかない。真実の罪の重さは自らの知覚に依存する。
罪と向かうあう覚悟があれば、自らが罪人であってもすべてに真正面からぶつかれる筈だ。
それが証拠に、オーネストは自分が『悪』に近いと知りつつも
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