15.誰ガ為ノ虐殺
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人事のように事実確認をしようとする私の額を、優しく何かが撫でた。
暖かくて、すこし無骨で、父親の掌を思い出させるそれの正体を確かめようと、目を凝らす。
そこに居たのは――
「……アキ、くん?」
「俺をその名前で呼ぶな。……まだ骨の接合が終わっていないから、大人しく寝ていろ」
「むぎゅっ」
起き上がろうとした顔を掌で抑えられ、奇妙な声が漏れる。
ぶっきらぼうでぞんざいな命令口調を浴びせたその男は、今は『狂闘士』と呼ばれるわたしの想い人だった。その姿を見て、ようやく意識を失う前の記憶を思い出す。
消えない後悔の源であり、消えない悲しみの源泉。
もう二度と、口を聞いてはくれないと思っていたひと。
「お前の部下は生きてる。今はお前の回復を待って周辺警戒中だ」
「やっと――口を聞いてくれたね」
自然と、そんな言葉が漏れた。
8年越しに通じた会話の最初がそんなありふれた言葉か、とも思ったが、さっきの「むぎゅっ」に比べれば何倍もマシだ。彼もまた、もう無言を貫くことはしなかった。
「…………お、おう」
彼は、どこか所在なさげにフイッとよそを見て、屁理屈をこねるようにぼそぼそと呟く。
「俺は、オーネストだ。だから……お前とは過去に『何もなかった』。今までのは……何となくお前が気に入らなかったから口をきかなかっただけだ」
「そういう、ものかな」
「そうだよ」
「本当に……?」
「ああ、きっと……な」
懐かしい過去の憧憬の再現に、瞳の奥から暖かな滴が零れ落ちる。
嬉しいのだろうか、彼が変わっていないことに。
それとも悲しいのだろうか、豹変してしまった今でも、彼が彼のままであることが。
答えが出ないまま――私はただ惰性のように、彼の優しさの下に留まり続けた。
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