14.氷獄領域
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詰まらせそうなほど、ひゅうひゅうと喉から空気が漏れる
このままでは敵を、通してしまう。
蹂躙される――皆が、理不尽に。
それを防ぐために自分がいるのに。
(戦線………維持しなきゃ。わたしがしなきゃ……)
肉体を無理やり動かすのは、熱に魘されるような衝動。
前へ――前へ――あの日から、決して鳴り止む事のない叫び声が背中を押す。
(立たなきゃ。立って戦わなきゃ、負ける)
ずたぼろの肉体で必死にもがいて、立ち上がることに失敗してまた地面に転がる。何本骨が折れていて、どこから血が出ているのか正しく認識できず、平衡感覚さえ曖昧なままにもう一度立ち上がろうとして――また落ちる。
遠のいていく意識の中で、それでも前へ、と呟いた。
視界が赤く濁り、片耳からごぼごぼと異音がする。
でも立たなきゃ。
皆に情けない姿を見せては、弱さを隠しきれない。
頭が痛い。足は感覚がない。腕が震える。
でも立たなきゃ。
戦いとはそういうものだ。立っていないと勝つことも出来ない。
もう、諦めるべきかもしれない。援軍は間に合わないか、そもそも来ない。
でも立たなきゃ。
何のために立つんだっけ。
えっと、そうだ。
アキくんを――アキくんを追いかけるために、前へ進むって決めたんだ。
遠ざかる背中、遠のく思い出、離れていく距離。
それ以上離れれば、永遠に途絶えてしまうと思ったから。
刀を地面に突き立てて、何とかまっすぐになろうとして、バランスが取れずに前のめりになって。
誰かに、ぶつかった。
ぶつかった誰かからは、とても懐かしくて安心する匂いがした。
誰かは、優しくわたしの体を受け止め、硝子細工を扱うようにそっと地面に寝かせた。
「――馬鹿が。足が折れてんのに立てる訳ないだろ。お前は昔から出来ないことまでやろうとする………悪い癖だ」
「あ……き、くん……。わたし、進まなきゃ――」
「寝てろ、邪魔だ。――特別に、あとは俺が片付けてやる」
それを期に、途切れかけていたリージュの意識の糸はぷつりと途切れた。
= =
その時『エピメテウス・ファミリア』はそれを確かに目撃した。
自分たちがずっと苦杯を舐めさせられていた魔物の大軍が――嵐のような剣に次々粉砕されていく様を。まるで意志を持たぬ天災のように暴威をふるって進路のすべてを薙ぎ倒す『それ』は、瞬く間に群れを成していた魔物の実に7割近くを惨殺し、反応する暇もなく彼らの横を通りすぎた。
『それ』は余りにも速すぎたが、ファミリアたちの一部は辛うじてその正体を垣間見た。
地獄から解き放たれた獣のように荒々しく剣を握った、その男を。
「
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