14.氷獄領域
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のならばそれでいい、とリージュは思う。
それは責任感とか立場とか善意とかそういうものではなく、彼女自身がそうすると決めた不文律だ。
かくあるべきという方向だけを見据えて愚直に進む。たとえ無理があっても、進む。
それは、あの日の夜に届かなかった親友の背中を追いかけているだけなのかもしれない。
それでも――裏切った友達に首を垂れる恥知らずな真似をする結果になっても。
(アキくん………ううん、オーネスト。あなたは私を赦してはくれないかもしれないけど――わたしにはこのファミリア全員を生かして帰す義務があるの。だから――!!)
後方から悲鳴が上がる。もうポーションも毒消しも数が持たないのだろう。
精神的にも体力的にも、極限の状態。崩れかけたレンガの家。
あと一押しで崩壊する――その刹那になって、リージュは祈るように刀を強く握りしめる。
だが――現実はいつも冷たくわたしたちを突き放す。
「――隙ありだ。お前も『祝福』を受けろ、『酷氷姫』」
虚空から、その声は唐突に響いた。
瞬間、衝撃。
「かっ、はッ!?」
鼓膜を突き破る大音量と衝撃が、リージュの体を軽々と吹き飛ばした。
自分でも気づかぬうちに疲労を我慢していたのか、受け身を取る暇もなく体が地面に叩きつけられて跳ねる。落下の反動に全身をシェイクされ、壁に背中が当たって体が止まった。
必死に呼吸しようとするが、横隔膜がうまく動かない。
視界が歪み、全身の痛みが熱いのか寒いのか、感覚が曖昧になる。
ただ、隙を見せてはいけないという本能的な防衛本能が、刀だけは離さず握らせていた。
「がはっ、ゴホッ!!ぁ……ゴホッ、ゴホッ………!?」
何が起きたのか――動かなくなった体を無理に動かそうともがいたリージュの鼻先に、からん、と音を立てて小さな兜が転がった。地の底に沈めたような漆黒の上に血潮と脳梁のこびり付いたそれが、リージュに真実を告げる。
(ハデス・ヘッド――確か、体を透明化させるマジックアイテム………そういう、ことか)
最初から使わなかったのは恐らく数がなかったから。こちらを消耗させて、単なる物量作戦と思い込ませた上での奇襲。魔物をけしかける度に少しずつ注意を反らしながら近づき、極限まで気配を消してあそこまで近づいていたのだ。
近づきさえすれば自爆の爆風を浴びせるのは容易。
命一つを犠牲にして、連中はまんまと大金星を挙げた。
一体どこでこんな代物を――と考える余裕さえなかった。
いや、もう思考能力がほとんど残っていなかった。
耳が馬鹿になったせいで音で気配を察知できない。
目も爆発の衝撃で使い物にならなくなった。
呼吸は乱れ、自分の呼吸で喉を
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