12.ツインドール
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っちゃうから」
言葉は魔法だ。根拠もない内容で人を強くもするし、弱くもする。彼女の過去を吐露することは、自らの弱さを曝け出すことでもあることは、彼女自身が一番よく分かっていた。弱っている今、これ以上他人に隙を見せることはそれ自体が彼女にとって耐えがたい。
もう一度、消え入るこうな声で「ごめんね」と囁いたリージュは部屋のベッドで膝を抱えてうずくまった。
「わたしは、アキくんとは違う。アキくんみたいに8年も意地張りっぱなしで平気な顔していられるほど強くなれない……どんなに名声と評価を得ても、何年経っても、心はずっとあの時のあの場所に置き去りにされて、雨水に凍えてる」
肉体はここにある。でも、打ち込まれた楔は永遠に後ろ髪を引かれて地縛霊のようにあの場所に留まり続ける。あの時、リージュの時間は止まったのだ。子供のまま、時は無情にも彼女を大人へと導いていった。
だから、弱い自分を守るために人の前では表情を削いだ。
だから、弱い自分の力を鍛え上げて冒険者になった。
だから、裏切りを恨んで秩序を尊んだ。
だから――
だから――
死への恐怖は薄れた。でも、戦えば戦うほどに過ちの記憶は重く、深く、鮮明に瞼の下に蘇る。
その光景を言葉にして語ることは、二度とないだろう。
あの時の二人だけが知っている、別れの記憶。
『アキ……Aki……秋……う〜ん、ねぇウォノ!アキクンって何?』
『人の名前だと思うが?りーじゅ殿、一つだけ教えてくれ。アキとは一体何者なのだ?』
「………それは、もうこの世にはいない人。わたしの大事な人。わたしに居合拳を教えてくれた人。わたしを――きっと永遠に赦してはくれない人」
二人の人形はアキくんという名前の意味が分からずに首を傾げていた。
その様子は可愛らしくもあったが、今のリージュにとってはそれ以上の価値を持ちえなかった。
= =
『――せやっ!!』
パァンッ!!と鋭い音を立てて、鞭のようにしなやかな拳は目にも留まらぬ速度で虫を叩き落した。
『すごーい!ねえねえアキくん、今の何?魔法!?』
『そんなんじゃないよ〜……今のは居合拳っていうんだ!パパが教えてくれたんだ!』
『流石アキくんだよ!アキくんのパパって団長なんでしょ!?その団長の技がもう使えるんだもん!!』
『えへへへ……まぁ、『母さん』はあんまりいい顔しなかったけどね。習得するためにパパから居合拳いっぱい食らってあちこちアザが出来たからさ。やっぱ『母さん』は戦いはあんまり好きじゃないんだよなー』
自慢げだった少年の表情は一瞬陰りを見せ、しかしすぐにいつもの笑顔を見せた。
家族が戦いを生業にしていない少女はそれでも少年が羨ましく、ついついねだってしまう。
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